こんにちは、反則狙撃です


三年生の授業を受けることになった以上は、三年生のクラスに編入という形をとってもらわないとダメだ。
そんなことを言われて、ダブル専攻…三年生と二年生の授業を特進科特権で受けることになった俺は、今、三年生のクラスにいる。
何故見慣れない人間がここにいるのだろうという人間は、ここにはひとりもいない。
退学、転入が盛んなここではよくあることであるし、たとえ俺が二年生だと知っている人間でも、首をかしげないだろう。飛び級ということも、よくあることとは言わないが、ないわけではない。 それ以上に、ここの学園に滞在していたら、何が起こってもおかしくないと思ってしまうからだ。
「はい。皆注目!今日から授業に混じってくれる、叶丞くんだ」
「せんせぇー」
だるそうに誰かが手を上げた。
「なんだ?」
「そいつの名前はー?」
雑然とした教室が一瞬静まる。誰かの発言が、何をおかしなことを行っているんだという沈黙ではなく、俺の名前とやらを聞き逃さないようにするために沈黙したのだ。
「今日は、一時間目が自由参加の戦闘だ。その時に確認しろ。では解散」
三年生の中に反則狙撃なんて混じってたら確実に俺だと解る。
自由参加であるんだから、みんな参加しなければいいものを、がっつり参加してくれるつもりのようだ。バラバラと三年生たちは準備に取り掛かった。
「あ、そうだ。叶丞くん」
教壇の上で一言も発することなく立っていた俺は、三年の担任に振り向いた。
「なんすか」
「一応、叶丞くんは、三年の授業ではあいつらと同じ扱いだから。大丈夫か?」
「?ええ、大丈夫ですけど」
教師のいうことに首をかしげていると、教師は苦笑したあと、俺に早く自分の部屋に戻って転送されるように言った。
一応必修単位の座学もあるものだから、クラスというものがあるのだが、一番最初の授業が実習や戦闘系のものならば、普段は教室に集まらず現地集合である。
しかし、本日は一応俺が三年生に加わるということで集まってもらったらしい。
三年生にもなるとクラスに集まることも少ないので、わざわざ申し訳ない気分でもある。
俺は急いで校内をショートカットするように、最短ルートという名の障害物競走のようなことをしながら、軽く走る。
三年のクラスから、寮の俺の部屋までのショートカットというと、単純にクラスから俺の部屋までを直線でつないだコースとなる。
そうなると、色々障害物も多い。
窓とか壁とか、だ。
超えられる壁は超え、開けられる窓は開けて飛び越えてのショートカットである。
窓はまだしも、壁など、その向こう側に誰がいるかなんて、気配を察知しようとしていない俺の知るところではない。
俺に対して悪意があれば別なのだが、悪意がないのなら、察知する必要などないし、気を張ってる状態は辛いものだ。
そんなわけで前方には注意していたけれど、気はゆるゆるだったわけで、壁を飛び越えようとした先にいた久しい顔に俺は、思わず、こう言った。
「あっかん、これ、校則違反やったりする?」
壁というより塀に足をかけた状態で尋ねたが、相手は目を見開くばかりで何も答える様子がない。
さもありなん。
俺の目の前にいたのは、俺を避けているのか、通常運行なのかはわからないが、久しく見ていない会長だったのだ。
「会長、これには深いわけが…っていうか、この前の!俺、まったく気にしてないいうか、つうか、なん?会長が気にしとるんかもしれひんけど」
俺を見て、時を止めている会長は驚いて俺を見るばかりだ。
「ええと、なんや、とりあえず、塀降りてええ?」
非常に中途半端な体勢である。
しかし、会長は俺が地面に降り立つことを許してくれなかった。
「…ッ、近寄んな!」
「え、あ…はい…」
塀に足をかけたまま、思わず返事をしてしまった。
いつもどおりすぎる反応であるにもかかわらず、会長の表情はいつもと違う。
いつもは嫌悪感も顕に、眉間に皺を寄せながら、『こっちに来るな』と手をふるような態度なのだが、今は、ある意味もっとひどい。
未知との遭遇。だ。
俺はそれほどまでに会長にとって未知の生物だったのだろうかと思って、真剣にとりあうと会長もさすがにしまった!となってしまうだろうと思って、軽く流そうとした。
しかし、それはすでに遅かった。
「……、悪い」
すごく、申し訳なさそうにいうものだから、俺も少し頭が回らない。
「…会長、あんなぁ…」
びくりと身を震わせた会長の言われたことを気にせず、塀から飛び降りると、ようやく地面に着地。
俺は、会長の言葉を無視して会長のそばに寄る。
「正直、謝られるようなこと、されてないっちゅうか、いつもどおりやとおもうんやけど。そうやって謝れると、なんや」
頭が回らない上に、今までの慎重さとか、これからどうするつもりだということにも目が向けられなかった。
失敗したといっていい。
会長に肩を軽く叩こうとした。会長はそれにも過剰に反応してくれ、身体を俺から逃がした。
俺は会長を見たまま、手をひっこめて自分の部屋へと向かう。
「むっちゃ腹立つわ」
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