さて、二人ほど撃ってしまうと、三年生方も黙ってはいない。
仲間意識が薄くとも、個々が大変自由だと言われている先輩方でも乱戦から抜けてくる数が多くなる。
血の気の多い将牙はまだ乱闘中のようであるが、俺の覚えのある気配がこちらに向かっている。
そう思えば、ちょっと前に厄介な先輩に好かれてしまった気がするし、その上、その先輩に大変酷似した、むしろ先輩そのものの気配が近づいている。
スコープから覗くその姿は、変装前故に、その先輩かどうかは判別がつかない。
先輩の武器をあえて見ないように、俺はじっくとりと先輩を睨む。
中距離の銃撃での速さと正確さという点において、早撃ちに勝てるやつはこの学園にはいない。
けれど、戦闘というやつはそれだけでは決まらない。
まだ、先輩の射程距離にいないというのは俺の利である。
俺はその先輩ではない他の先輩方を撃つ。
時にフェイントし、時にそのまま撃っていく。
もう既にバネッサは使っておらず、長距離砲だけで撃っているのだが、これがなかなか数が減らない。
「もっと潰し合いしとってくれたらええもんを…」
ある程度、こちらに向かってきていた連中を撃ったあと、未だ乱闘している集団に銃を向ける。
未だこちらに向かっている人間は気配を追いつつも無視だ。
乱闘しているだけあって、俺のことなど気にしていてもさほどではないだろう。
乱闘中の先輩方を次々と撃っていく。
目の前で戦闘をしていた相手が急に消えて、慌ててあたりを見回す先輩も、少しずつ、いつの間にか数が減って動きが止まった先輩も、将牙はさすがに撃っても避けてくれたが。
付き合いが長いってだけで予測済みか。
「俺らの相手はしねぇってか?」
後ろから俺を見上げつつやってくる、乱闘集団からこちらにきて、俺に離脱させられなかった先輩の一人がつぶやいた。
俺は振り返ることなく呟く。
「展開」
今現在、俺の肉眼での視界はスコープにのみとられている。
しかし、俺には少しばかり魔法が使える。
これにより、まったく見えないだろう場所も見ることが可能である。
その代わり、頭はいつも以上の情報の処理が必要であるし、前方と他の場所を混同することもある。
俺はそれをしないように、遠くから二つの画面を見ているように捉える。
わざわざ俺が登りにくい建物を隠れ場所に選んだのには、もちろん理由がある。
罠が、かけやすい。
それと、時間も稼げる。
俺はなお、スコープをのぞきながら引き金を引く。
「無視か」
先輩も腹がたつだろう。しかし、戦闘中、冷静さをなくすのは厳禁だ。
俺もイライラはしていても、冷静さはなくさないことを心がけている。
先輩が怒鳴っても、何を言っても、俺はあるタイミングを狙って、一言呟くことと、引き金をひたすら引くことに終始しなければならない。
一つでも間違えば、俺はその場から離脱しなければならないからだ。
その先輩は近距離武器選択…剣を選択しているようで、こちらに登ってくる。その後ろから、ニヤリと笑った先輩は、サイレンサーをつけた銃を持って、俺の出方を見守っている。
見たくないものを見てしまったが、俺は慌てない。
慌ててはいけない。
将牙の近くにいた一人を離脱させた直後くらいだろうか、剣選択の先輩が所定の位置にやってきた。
俺は強くイメージする。
イメージと石に繋がった魔術の糸はしっかりとその石を発動させる。
「展開」
魔法石がその場に岩を一つ落とす。
それだけの魔術なのだが、それだけで十分だ。
先輩はそれを避ける。
弾くほどの重さではないし、二つに切るには剣を振るのに向かない場所だった。
避けても、よけなくても、だ。
先輩に当てることが目的ではない。
もろくなっていた床はその岩が落ちる衝撃と重さに耐えられずあえなく崩れる。
そうすると、俺に向かう最短コースはなくなり、先輩の足元も崩れ始める。
実は大変不安定な場所に、俺は陣取っている。耐荷重量もおそらくギリギリだろう。
俺は振り向ざまライカを引き抜き、連射。
こういうのを一発で決めるのは早撃ちの得意とするところであるが、俺は確実性をとって続けざまに引き金をひかせてもらった。
剣をふるって俺の銃弾を弾いた先輩は、崩れる足元とともにしたへと落ちる。
その落下を逃す俺ではない。
落下していく先輩にライカを撃ち尽くすと、一言。
「展開」
今度発動した石には結界が仕込まれており、先輩を包むように、小さな結界をつくった。
銃弾を閉じ込めて。
剣をふるって跳弾で傷ついた先輩は、そのまま落ちる。
さて、着地は大丈夫だろうか。
と思ったところで、システムが発動。どうやらこのまま落ちてしまったら致命傷らしい。
ちょっと尖った瓦礫がたくさんあって、うまく着地しないと大変なところだったので、システムは正しい。
ニヤニヤと笑っていた先輩が口笛を吹いた。
「これも計算か?」
…認めよう。この先輩はきっとたぶんほぼ間違いなく、焦点だ。
「さぁ、どうでしょう」
ちょっとした幸運くらいはあったかもしれない。
煽らなければあの先輩は最短距離なんて登ってこなかったかもしれないし、ニヤニヤと焦点先輩がこちらを眺めてることなんてなかったかもしれない。
けれど、たとえ先輩がこちらを眺めず距離を縮めて銃口を向けたとしても、俺は防御できなかったわけではない。
俺は展開していた視界の魔法をとく。長く使うと、疲れが尋常じゃない。
俺は焦点を見ながら、フレドを取り出すと、こちらに向かってくる先輩方を牽制する。
さて、先輩方はどこまで騙されてくれるのだろう。