つくづく、俺というやつはタイミングが悪い。
とりあえず一織の提案を保留にしておいたら、コンビ戦闘で双炎の二人を引き当てる。
「猟奇」
「何?」
「腹痛でおやすみしても」
「嘘だろ」
そのとおり、嘘だった。
俺は転送された先でライカとフレドを確認したあと、長距離用の銃をもって、移動する。
今日の演習場は隠れる場所の少ない砂漠のような場所。
砂の丘に起伏はあれど、建物は遥か彼方。
「大体砂場は熱くてきらいなんだが…」
砂の丘に隠れながらの狙撃は伏せてすることになる。
太陽光で温められた砂は熱くて、最悪だ。
「好き嫌い良くないだろ。ほら、早く隠れてこい。それからスタートなんだから」
仕方なくだらだらと目をつけたポイントにたどり着くと、俺はスコープから双炎の二人を探す。
二人とも良平の目の前に立っていた。
三人は何か話しているようだ。この距離では聞き取ることはできない。唇を読むこともできるのだが、変装時の良平は面をかぶっているし、会長はフードの影が邪魔でよく見えない。
双剣に至っては手で口元を隠している。
そのため、三人が何を話しているかはわからない。わからないが、あまりいい予感はしない。
そう思えば、会長は良平を避けているような節もあったのに、良平とは割と普通に話す。それとも、会長が話さざるを得ないようなことを良平が言ったのだろうか。
いや、それよりも俺は目の前の戦闘に集中せねばなるまい。
俺は一度まぶたを閉じ、息を吐けるだけ吐くと、ゆっくり吸う。
今回の俺の目的は、遠距離からの援助。
できることなら、一撃目で双剣、または焔術師を離脱させること。
俺が引き金に指を当てると、戦闘開始のブザーがなった。
俺に狙わせないためにとりあえず動く作戦に出たのか、焔術師と双剣は開始位置からすぐに離れる。
良平は双方どちらも追うことなく、何か陣をかき、術式を唱えている。
珍しいことに何か大型の魔法を使うつもりらしい。
鉄の棒に何も展開されていない。
俺は厄介な魔法使いを先に片付けようと、焔術師に視線を向け、ゆっくりと狙いを定める。
焦るな、逃すな。
不意に、双剣とスコープごしに視線が合った気がした。
次の瞬間、俺は焔術師にではなく、双剣に向かって引き金を引いていた。
「…気づいてやがる…」
俺の隠れている場所に、双剣は気がついているようで、弾をよけた挙句こちらに向かってニヤリと笑った。
どうやら、焔術師も大型魔法を使うようで、長いこと術式を唱えている。
「…まさか、魔法対決提案したんじゃないだろうな…」
コンビ戦闘だというのに、何をやってくれてるんだ、あの相方は。
そう思っているあいだに、双剣がこちらに向かって走ってきてくれた。
先日魔法石の魔法を使ってしまったため、召喚くらいしかできない俺は、双剣を長距離銃で牽制したがままならず、ナリアを召喚。片手にスタンバイすると、もう片方にライカを握る。
「まったく、もってもてで羨ましいことで…!」
ライカで撃った弾を二つの剣で器用に弾道をそらしてよけるという、いつも見ているものとは違った方法でよけられる。
俺は走りながら、ライカをホルスターに収め、久しぶりに彩華を取り出す。
「いや別に?」
そんなことを言いながら、撃てるだけ彩華で弾を撃ち追尾させたあと、迫る剣先をナリアの引き金を引くことで弾く。
剣先が反動で大きく上へと弾かれたのを確認すると、俺は、彩華をホルスターに放り込み、フレドを片手に持った。
彩華の弾から逃げるために片方の剣を振るったところに双剣の懐に潜り込み、再び迫るもうひとつの剣をナリアでもう一度弾いた。
双剣の顎下に銃をいれ、笑う。
「珍しいだろ?」
双剣が先に弾かれた剣を俺に振り下ろしながらこう言った。
「やなやつ…!」
その剣は俺には届かなかった。
ただでさえ熱い砂漠地帯のような場所なのに、上がる豪炎で蜃気楼が遠くに見えた。
相方はどうやら、魔法対決に敗れたらしい。
やれやれ…と思いながら、俺は長距離砲を召喚して狙いを定めた。
双剣のおかげで俺が最初にいた場所からは随分ずれていたので、狙いやすかった。
焔術師は良平に勝ってほっとしていたのか、双剣を信頼してか自分の身を守ることにお留守だったようで、あっけなく俺の銃弾で離脱を決め込んだのだった。
俺は戦闘終了で風呂場に転送されたあと、携帯端末であるところへ連絡をいれた。
「あ、ひぃ、この間のことやねんけどな…」
あまりにもあっけなさすぎて、これはちょっと、俺のせいかもしれないとか、いや、ちょっと、考え過ぎかもしれないのだけれども。