◇◆◇



アレのことを考えるのは、もはや苦痛だ。
できるだけ考えたくはない。
けれど、タイミングってやつはいつも俺の味方をしてくれない。ここのところは特にそうだ。
何もコンビ戦闘でまで顔を合わせなくてもいいだろう。
だが、アレは狙撃をするつもりらしく、この場にはいない。
いるのはアレの相方の良平のみだ。
「焔術師、ちょっといいか」
正直なところ、あまり良平と話したくはなかった。
釣られてアレを思い出してしまうからだ。
「大型の魔術を試してみたいんだが」
「……」
だが、アレの影より、良平という魔術師が作り出す大型の魔術というやつが気になった。
良平は小技や細かなコントロール、スピードを売りとする魔術師だ。その術式の計算たるや、目を見張るものがあるし、日々進化し続ける魔術は、本当に魔法武器を選択している生徒かと疑うほどだ。
「それとも、こんな小技使いの大型魔術が怖い?」
「ハァ?」
「焔、喧嘩売ってきてるだけだ、買うな」
いや、そこは買わなければならないところではないだろうか。
俺のプライドといってもいい。
大型魔術で劣ったとあれば、俺はまったく自信を持てなくなってしまう。
「焔術師がその程度とは…」
乗せられている。それはわかっているが、どうしてもひけないものというのはある。
俺は、良平の喧嘩を買った。
良平の魔術はこちらが目を奪われるほど綺麗な術式だった。
術式といい、砂に描かれた陣といい、無駄がなく、素早かった。それが、出力不足でなければ、俺は負けていたかもしれない。
それほどまでに素晴らしかったと思う。
良平は出力不足に苦笑して、離脱前に肩を下ろした。
騙された。
そう思った時には、すでに、俺はアレの銃弾で離脱させられていた。
…アレのことは、すっかり忘れていた。
俺は離脱後、すぐ、良平に会いに行った。
「なんであんなことしたんだ…?」
「んー…コンプレックスにばっかりかまけてると、追い越しますよっていうのとか…あと、そうだな…そんだけできて、コンプレックスとか何、イヤミ?ってことかな」
どこまで誰に聞いているのか…おそらく、兄…はないだろう。たぶん、あの何も聞いていないようで聞いている、風紀委員長だろう。
「いっそ、思い切ってぶつかってみるのも手だろ」
そうしていると、携帯端末が腰のあたりで震えた。
…兄からの連絡、だった。



◇◆◇



「ええと…この間は、ごめん」
「おまえなんて嫌いだ」
いや、それは重々承知しているのですが、もしかしなくても、先ほどの戦闘でのこともあってのことでしょうか?
良平が魔法対決をしてくれたのは、どうにもこうにもこのままでは俺の研究も進まないし、なんとかしてもらいたいというのと、一応、親友だからという理由だったらしい。
魔法対決で勝った方がいうことをきく的な賭けをしたとは良平の言だ。本当のところはよくわからない。
良平のことはきっかけにはなっているかもしれない。
けれど、俺がフライングしたため、結局、一織に協力してもらって会長に面と向かってちゃんと会えたのは、懐かしの生徒会室。
一織が『男だろうが、お前、今更うじうじすんな』と言って殴らんばかりの勢いで生徒会室で渋る会長を置き去りに、俺と交代してふたりっきりにしてくれたのだ。
だが会長が何か誤解しているわけでもないし、俺が気にしていないといっても気にしているのは会長だから、何を言っていいのかもわからぬまま、先日のことを謝った。
本音ではあったのだ。
しかし、言い過ぎたというか、余計なことを言ったと思う。
「別に、お前が完全培養だろうが、知ったことじゃねぇし。ちょっと珍しく考えると、面倒くせぇことになるし…大体なんで、俺が好きとか言ってんだよお前。兄貴のがスゲェしいいやつじゃねぇの」
先日の態度は、少し驚きはしたものの、完全培養なんてことはどうでもいいのかもしれないし、それが会長の優しさなのかもしれない。
それこそ、きっかけみたいなものなのかもしれない。
だが、会長は結局、なんでも自分自身より優れていて素晴らしいはずの一織が俺のことを好きだと言っているのに、俺が会長のことを好きだというから、混乱していると思っていいだろうか。
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