「なんや、ひぃ。どないしてん」
振られて、飯を食べる元気もなく、ふて寝していたら、やたらとインターフォンが俺に話しかけてくれた。
煩くなってドアを開けると、そこには息を切らした一織が立っていた。
「…、振られ…たって…?」
「良平?」
入口に手をついたまま息を整える一織は、わずかに頷いた。
本当にいつの間にそんなに仲良くなったんだ、一織と良平は。
「振られてもうたわー」
「……ば………っか、じゃねぇーの…!」
弟に振られた上に、兄に罵られるとは…厄日だろうか。
「いや、そんなこと言われましても…」
「……とにかく、中入れろ」
「あ、はい」
俺の整理はされているが作りかけの機器類や、メモがやたらと貼られた部屋に入り、一織は部屋の隅に追いやられたソファに座った。
「それで…振られたって何したんだ」
「何って、告白やけども?」
「それだけか」
「それだけやで」
俺の言葉を聞いたあと、一織は天井を仰いですぐに下を向いて頭を抱えた。
「お前も、十織もよくわかんねぇ」
「なんが?」
「平然としているお前もそうだが、十織も十織だ…」
「いやいや、嫌われとったしな?」
一織は俯いたまま、大きくため息をついた。大きくて、しかも長いため息の後、顔をあげた一織はなんだか疲れていた。
「俺が諦めてやったのにか?」
「いやいやいや、ひぃがどうとかしたところで、会長の気持ちやらなんやらはどうにかならんと思うんやけど?」
「お、ま、え、は…!」
胸ぐらを急に掴まれ、揺さぶられ、俺は頭をガクガクさせながら一織の話を聞いた。
「この、しつこい俺が諦めてやったんだから、あのくらいの根性なしを落とすくらいの気概をもて!弱い!押しが弱い…!腹立たしい!流されすぎだろ!本当に、腹立つな、おい…!」
ガクガク揺さぶられた挙句、思いっきり床に投げ捨てるように手を離された俺は、なんとか受身をとって床に転がりつつ、しばらく起き上がれもしないで頭を抱える。ガクガク揺さぶられたダメージで、ちょっと起き上がれなかったわけだ。
ていうか、根性無しって、それは酷い。
「ほんっと…ほん…っと…」
一織のため息が、途切れ途切れに聞こえた。
「……泣いとるん?」
あまりに意外であったため何とも人の気持ちを慮らないことを聞いてしまった。
「…ちょっと…な」
顔を上げると、俺が見えないように隠されてしまったので、本当に泣いているかどうかはわからないが、泣きたくなる気持ちはわかる。
だって、俺も少々泣きたい気分だ。
「俺も泣いてええ?」
「おまえ、は…ダメだ」
「えー…」
「だめだ」
固く拒否された俺は、友人を慰めることもできず、泣けもせず、少し話題を変えることにした。
「良平なんていうたん?」
「……おまえ、が、フリーだ…って…」
いや、振られる前からフリーですよ。まともな恋人いない歴年の数だけですよ。
仕方がないので、フラフラと立ち上がると、作業用に使っている椅子をソファのそばまで持ってきて座る。
「俺、おらんほうがええ?」
「……」
「けど、俺は、泣かんためにも、ちょっとおってほしわ」
椅子の足を強く蹴られる。
ちょっと椅子から落ちそうになったが、なんとかもちこたえた俺に、一織がつぶやいた。
「…ばーか…」
その後、少し目が赤くなった一織は、俺をめちゃくちゃ罵って帰ってしまったんだが、違う意味で泣いていいだろうか。