良平様がおっしゃった。
「体育祭前に、コンビ戦闘は文化祭でっていったよな?」
いい笑顔だった。
俺が三年の授業、二年の授業とフラフラしている間に良平は勝手に申請してくれたらしい。
俺に否やはないのだが、釈然としない。
良平も確か法術を専攻して三つ掛け持ちのようなものになっていて、俺と同じくらい、いや、それ以上忙しいはずである。どうしてそうもちゃっかりしているか知りたいものである。
あいつの一日は24時間ではないのかと疑っていいくらいだ。
「きょーおーすーけーくんッ」
俺が文化祭に向けて忙しそうにしている魔法使いたちを尻目に、学校の備品である銃を整備しながら、良平への文句を並べている時だった。
「なんっちゅうか、千想さんって、いかにもこーくんの友達ですやんな」
波乱の予感をさせつつ編入してきた千想さんは、実におとなしかった。
いや、もう既に俺の出自を語って会長とこじれるという事件のきっかけを作ってくれたが、そこは本人が意図したところではない。
俺が三年生の授業と二年生の授業でバタバタしていること、会長のことで軽く頭を使っていたこと、それによって気がついていない可能性もある。
とりあえず、問題が起きて大変なことになりそうな舞師の片割れである将牙はいつも通りであるし、舞師の相棒の一織も通常通りなので、まだ、大きな問題は起こっていないと俺は推測する。
「心外だな」
「気持ちは解りるけどねぇ」
「分かるなら言わないで欲しいなぁ」
「解るからいうとるんですよー」
鉄の筒に細長い掃除用具を通して中を綺麗にする。
会話はしても手は止めない。
「叶丞くん、意外といい性格してるね」
「意外やないでしょ。普通に普通でしょ」
「ああ、うん。ごめんね。反則とか言われてる人だし、普通だよね」
すごく心が折れる音がした気がする。
戦闘と、普段の人に接する態度は違うものだと、俺は思うんだけどどうなんだろう。深層心理とか深いことはあまり考えたくない。
「それで、なにか?」
「あ、うん。この前はごめんねぇっていうのと、ちょーっと、逃げ回ってる君の知り合い捕まえてくれないかなぁって」
俺は思わず手を止めた。
何も起こっていないなと思ったら、舞師は千想さんから逃げているらしい。
俺は作業をしながら、首を横に振る。
「なんやあったら、行動するていいませんでしたっけ?」
「あー…これくらいで、何かっていうのかな?」
「要因つくって、巻き込まれかけたらそら、なんやありますて」
ばらして掃除をした銃を組立直し、動作を確認。左側の空いたスペースを見て、一息ついた。
「そう?」
「ごまかされませんて。こーくんもそうなんちゃいます?」
「……君たちホント、似てる」
俺は銃を慎重に、かつ大胆に抱え上げると、倉庫の定位置に戻すために移動する。
「こーくんは、それでも俺のが『えげつない』いうてますけど」
「アレは自分のことを棚に上げるからねぇ…でも、時に本気だからね。伝説の君」
伝説の君というのは、俺のアイタタタなシュミレーター事件のことから名付けられたお名前らしい。
俺は早くあの記録が塗り替えられることを切に願っている。
そして、今後記録に残るような銃撃は絶対しないと心に誓った。
何故、人はちょっと恥ずかしい称号で人のことを呼びたがるのだろう。
「絶対、協力なんかしませんわ」
これも心に誓った。