そんなこんなで三年のクラスにも馴染み始めていた俺であったのだが、それでもまだまだ二年と三年の授業に手がいっぱいだ。
だから、高等部の銃選択でとんでもない文化祭企画が通されていようなどと夢にも思っていなかったのだ。
学園の文化祭は、体育祭と違って地味な文化クラブの展示会であった名残で、今年も一週間開催される。
展示だけならば問題なかったのだが、生徒会も何を考えているのか、一日目から最終日の七日目までずっと本祭で、ずっとお祭り騒ぎであるというのだ。
後片付けと準備を入れれば九日もの間文化祭のようなものである。
俺は準備…前夜祭のときに初めて俺の所属する銃選択が通した文化祭企画を知った。
その名も『廃屋殺人』というホラーゲームだ。
廃屋の中での戦闘を想定して作られた演習場…まさしく色々な廃屋そのものが立ち並ぶそこの建物を使い、やってきた客をホラーゲームさながら、ありとあらゆる手段で陥れ、その場から離脱させるというものだ。
ホラーゲームと同じで、出されたヒントに従い建物から出るか、殺人鬼として建物にいる人間を倒したものが勝者となる仕組みらしい。
殺人鬼として建物にいる人間もまたシナリオに従って動いているため、客のことはある程度泳がせることになっているらしい。
このホラーゲームはシナリオ班、建物セット班、衣装デザイン班と、他の一般的と言われる文化祭と同じように役割分担がなされ、用意されてきたようだが、この前夜祭までそのことを知らなかった俺は、何故か『実行犯』に数えられていた。
つまり、廃屋に潜む殺人鬼役だ。
「なんでや…それくらいの動きなんでわからんかってん…」
前夜祭の準備が既に終わっている良平の部屋でぶつくさと文句を言えば、休憩中の青磁が教えてくれた。
「銃選択連中で実行犯候補をハブって決めたことだとよ。原因を突き止めたうちの副も嘆いてた」
どうやら佐々良も実行犯らしい。
「佐々良が気がつかないのは、ま、今三年生の追いかけっこ楽しそうにしているから仕方ねーとして。お前が気がつかねーの……あ、もしかして、会長のことあった時期くらいにきめたのか」
「っぽいですね」
「くっそ、なんで周りをちゃんと見とけんかったんや…」
決まってしまったことに嘆いても仕方ないが、これ、文化祭でやること決まったからと、授業中に銃選択の一人から手渡されたシナリオを見たら、それは嘆かずにもいられない。
俺の役目は殺人鬼だった。
実行犯といっても色々いて、それこそ『犯人』ではなく、客にヒントを与えるやつや、犯人を隠すためのやつ、場を賑やかすためだけのやつだっている。
ミステリのような展開で、ホラーゲームはすすむらしい。
時にその廃屋にきた登場人物に混ざり、時にただ息をひそめるように隠れて、『犯人』たる殺人鬼役は『主人公』たる客を狙う。
それが数件の廃屋で実行犯交代で行われるわけだ。
「けど、そういうのお前に似合わねーのに、珍しいな」
「反則は姑息で卑怯で反則でも、殺人楽しむような設定は向かないだろうしなァ…」
前夜祭の今現在、銃選択の連中はシナリオのあらすじを配り歩いているらしい。
「それこそ、選択ちげーけど暗殺者とか、銃なら焦点とかがいいんじゃねーの?」
「あれは快楽殺人ちゃうやろ。計画的に殺るタイプやろ…」
「恨みは深そうだけどな」
確かにあのふたりは恨みが深そうなタイプである。
しかしながら、一織などはさっさとその恨みをぶつけてスッキリしそうなものではある。
「なんにせよ、もう断れねぇだろ。そのために秘密にしてたみてぇだし」
良平さえよければそれでいい青磁は、俺の不幸はどうでもいい。しかし、友人ではあるので、憐れみくらいはしてくれる。
「ああ…無視できたらよかったのに…」
「できないだろ。本当に被害を負う場合以外は、流されるだろ、おまえ…」
良平の言うとおりなので、俺は頭を抱えることしかできなかった。
「ていうか、良平。佐々良が追いかけっこ云々って知ってたのか?」
「風紀の手駒は俺の手駒だ」
「………じゃあ、もしかしなくても俺のことも知ってたんじゃ」
「いや?」
良平様はきっと知っていたのだ。
主人に絶対服従な友人は、何故か良平の様子に目を輝かせた。
たぶん、『良平さん、素晴らしいっす…!』みたいなことを思っているに違いない。