加害者はどっちだ


弾を入れ直しながら、文化祭とはこんなにも殺伐としたものだったかなと首を傾げる。
俺は思い返す。
登校してすぐのことだった。俺は二年の銃選択担当教師に『はい、部屋に戻って転送されてきてね』とにこやかに追い返された。寮に戻る際、ふらふらと他のクラスも見てきたのだが、人はまばらで文化祭といった雰囲気が少しもなかった。
俺の知っている文化祭は『祭』とつくだけあって、それはそれは騒がしいものである。ここの文化祭がその俺の知っている文化祭とは違い展示のみのものであっても、『祭』の雰囲気はそこそこあるものだ。
しかし、教室にはその雰囲気がまったく感じられなかった。
いくらこの周辺に学園関連の人間しかいないくらいだし、一般公開しても、こんな辺鄙な場所に来ようという人間がいなさそうなものだからといって、この盛り上がりの薄さは異常である。
そう思っていたから寮の部屋から転送してもらったあとたどり着いたその場所で、俺はあまりの場違い感にめまいを起こしそうだった。
いつもは閑散としていて不気味なばかりの廃墟フィールドは、お祭り騒ぎとしか言い様のない銃選択の人間が溢れ、見ているこちらが気疲れしそうだ。
「なんだこれは…」
「よぉ、反則」
最近では変装後の姿より変装前の姿を見かけることが多くなった焦点が俺に向かって手を振った。
彼は既にお祭り騒ぎの一部となっていた。
「それ…」
「ああ、なんか猟奇が俺に貸してくれた」
相方の愛用の面を手に持った先輩は、いつも通り嫌味な笑みを浮かべていた。
相方のつけているものは変装魔法がかかっていたはずなのだが、先輩が『猟奇』の姿になることはない。
きちっと学校に申請したイベントなのだからどこかの誰かがいじったのだろう。
「どうだ、これ?」
猟奇の面をかぶっても、先輩は良平のようないやらしさを発見できないのは、俺の相方への思い込み故だ。
「よくお似合いですよ」
そう言いながら、俺は自分自身を見下ろす。
いつもはジャージをきているからジャージ姿なのだが、俺は制服を着たままヅラとサングラスを着用したため、制服で反則狙撃となっていた。
「で、衣装、着なければならないんですか」
「そうだな。あそこでアイテムくれるからもらってこい」
焦点が指差したそこに衣装班の腕章をつけた衣装班の一人が立っていた。
恐らくゲームの受付となる場所だろうそこには折りたたみ式の簡易の長机が置かれていた。焦点に軽く礼を言うと、そこにあった箱の何かを配っていた衣装班に、アイテムをもらいにいく。
恐らく変装魔法のかかったアクセサリーのようなものだろう。
「う、わ…反則狙撃?マジもんだ…ここの担当してよかったー!」
反則狙撃は一応美形系変装で、しかも有名人であるため一応人気がある。一部には大変嫌われていても、そう、人気がある。
そのためこういうこともあるのだ。
普通に授業を受けていてもあわない人間にはあわないせいもある。
「…どうも。アイテムくれないか?」
衣装班はやたら感動した様子で俺にアイテムを渡してくれた。
俺用の衣装用アイテムらしく、別の箱から取り出されたそれは眼帯だった。
眼帯を装着してみると、一瞬にして衣装が変わる。紙の着せ替え人形に服をあてがったかのような素早さだった。
「あの、すみません、髪型も設定してあるんで、その…」
「あー…わかった。直しておく」
そう言って、俺は瞬時に変った服を見下ろす。
何処からどうみても、礼服だった。
「どうしたもんかな…」
設定してあるというから俺はヅラを大胆に脱いでみたのだが、どう変わったかはわからない。
礼服に眼帯というだけでも、どんな殺人鬼だよとおもったのだが、渡された台本を見る限りでは、大変な変質狂だったのでこんなものなのだろうかと思い直した。
「そんなに長いわけでもないな」
左目にかかったアイパッチ部分だけを額にお仕上げ、前髪を引っ張って睨みつける。
色は見慣れた茶髪でもなければ、コーンロウの黒でもない。
「金髪も似合うな、反則狙撃」
そう言ってくれたのはここにいるはずのない人物だった。
「暗殺者か。久しぶり」
「そうだな、久しぶり」
俺の部屋で罵るだけ罵って帰ってしまった日…俺が振られた日以来なので本当に久しぶりのことだった。
あんな現場に居合わせてしまったし、最後には罵って帰ったのだから少しくらい気まずそうにしてもいいものだが、一織はいつも通りだ。
「どうしてここにいるんだ?」
「様子見だ。一応、イベントを行ったり、出展をしたりするグループや個人を見て回ることになっている。準備を急いでもらうためにも」
「なるほど。……で、なんで暗殺者なんだ?」
文化祭実行委員会は、変装がばれないように一様の変装になるようになっていて、生徒会であろうとなかろうと、リーダー格であろうとなかろうと同じ姿をしているはずだ。リーダーなどは腕章や名札でそれを示しているので流石にわかるようになっている。
しかし、一織はいつも通り暗殺者の姿だった。
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