結局一織と一緒に飯を食いに行くことになった。
文化祭の準備に加わっていなかったこと、バタバタしていたこともあって知らなかったのだが、文化祭ということで、屋台のようなものもでているらしい。
生徒が出しているものから、近隣の街というか村というか…そういったものから来ている人もいるらしい。
屋台通りがあるからと、文化祭の準備をしっかりとしていた一織が案内してくれた。
演習を行うフィールドを文化祭に貸出しているらしく、教室などは使っていないということで、フィールドとフィールドを行き来しやすいように、転送魔法を使う魔法使いが所定の場所に配置されていた。
その転送魔法を使う魔法使いの一人に見覚えがあり、俺は、その魔法使いに近づく。
「第八区街フィールドまで頼む」
魔法使いは反則狙撃と暗殺者という二年の有名人が近づいてきたことに面食らっていた。
「え、ああ、はい」
少し緊張した面持ちでそう言った魔法使いは、良平に突っかかっている面影がまったくなかった。
そうでなくても、魔法使いとは思えぬ口調を強いられていたはずであるのに、反則狙撃と暗殺者は恐れられているのか、それとも、憧れられているのだろうか。
「あ、ちょっと、待ってくださいっす!反則狙撃さん、その、猟奇さんに…!尊敬してますって…!」
「名前は?」
「あ、まだ…いえ、いずれは!その時、でもいいんで、伝えてくださいっす!」
微妙な敬語を使う良平にやたらつっかかってくる魔法使いは、どうやらそれなりに俺と一織にも尊敬を抱いてくれているらしいが、猟奇ほどではないようだ。
名前の方は仲間内で呼ばれるあだ名でもよかったが、本人が通り名で呼ばれるようになるまではと言っているので俺は頷くだけにしておいた。
俺が頷くと、嬉しそうに礼をいい、俺たちを転送してくれた。
そうやってほのぼのと転送されたあと、俺は、ふと疑問に思って尋ねた。
「体質は?」
「あの転送魔法は人物を送る魔法だが、特定人物を送る魔法ではない。場所と場所をつないでいる魔法だから、俺に魔法がかかっているのではなく、場所に魔法がかかってるんだ」
「なるほど。じゃあ、体質抑えるアイテムさえあればつかえるわけか」
「そうだ」
そのアイテムと本人のコントロールなくしては、本当に魔法をすっかり無効化してしまうので、大変不便な体質だが、これほど巧みにコントロールできるのなら、利用するのも難しくはない。
それのおかげで貧乏神と呼ばれてしまっているのだが。
「アン!頼みます!!」
つくづくぼんやり貧乏神様の所業について思い返していた俺のとなりを駆け抜けて、誰かが叫んで暗殺者に声をかけていった。
暗殺者をアンだなんて、甘ったるいのやら女の子の名前のようなのやらわからない名前で呼ぶのは、この学園には一人しかいない。舞師だ。
屋台がズラッと立ち並ぶ、人ごみで気配が煩いので少し感覚を遮断していた俺は、駆け抜けていった舞師の気配だけを追った。転送をしてくれる場所に向かっているようだ。
何かを頼まれた一織は、一瞬やれやれといった表情で駆け抜けていった舞師を見たあと、舞師がやってきた方向をみた。俺も釣られるようにして何かに乗ってやってくる魔法使いを見た。
「109番か」
それは、千想さんだった。
一織は音も立てずにその場から歩き出すと、千想さんとすれ違う。
ほんのわずか千想さんに触れただけだった。千想さんが、召喚したであろうものから、落ちた。力の供給が一織に触れられることによって一瞬絶たれたせいだ。
「また君か、暗殺者くん…!」
「すまない、今度よく言ってきかせるから」
「そうはいっても、あの男、逃げるだろう?」
一織は千想さんと舞師である伊螺の追いかけっこにちょっと巻き込まれているようで、疲れたように首を振るだけだった。
「というか、君も君だ。君は僕がいなくなってからここに来たというのに、邪魔だけはするんだな」
「事情は一応聞いているのだが」
「それだけで手を出されるのはこちらとしては楽しくないな」
いらぬ苦労を背負わされているような気がした。
俺は手を出さないし、手を貸さないし、巻き込まれたくないとは思っていたものの、俺がバタバタしたり悩んだりしている間に、一織は面倒なことに足を突っ込んでしまったようだ。
「109番、早く追いかけたほうがいい。気配だけは追ってあるから、教えてやれる」
「反則狙撃」
「さすが、反則狙撃くんだ!どこにいった?」
「研究棟の方角だ」
俺を黙らせようとして名前を呟いた一織が、俺の答えに口を閉ざした。
千想さんは不満そうな顔をする。
「詳しく」
「地図広げて当てて見つけてみせるのが、ディスティニーってやつじゃないのか?…俺は手を貸さないっていっただろう?」
「……えらく部の悪い手を貸さないだなぁ…」
「付き合いからいうと、舞師の方が長いもので」
わざとらしくすねたポーズをとったあと、千想さんは再び召喚したものにのって去っていった。
「悪いな」
「暗殺者が謝ることじゃない」
そう言いながら、俺は屋台の方へと歩いて行った。
一織が足を突っ込んでしまったのなら、俺も少しだけ足を突っ込むことにしようか。悩んでいるあいだに随分甘えてしまったことだし。