この学園の文化祭は、学園外の人間が出店してもいいくらいには外に解放された祭りになっている。
だが、残念ながら、他の街や都市、国からくるにはかなりの遠出となってしまうためわざわざやってくる人間は限られている。
学園に通っている生徒の身内や友人、近くの町なのか村なのか微妙なラインの集まりの人間、もしくはこの学園に来ようと思っている人間だ。
あとはもの好きくらいだ。
そんなわけだから、ほとんど学園関連の人間しかいない。
「寿…」
屋台街のある一角。
明らかに学園に関係ない、ゆるい感じのイケメンで面食いの男と、このあたりでは見かけない服を羽織ったイケメンが、ありとあらゆる人間に声をかけては楽しんでいた。
「あっれーなんかかっこいいお兄さんが声かけてくれるんだけど。しかも、俺の名前なんで知ってるんだにぁ?」
「あら本当。貴方の名前を知ってる、ここの人間なんて……はじめて見る顔では少ないはずよ」
変装後の俺と一織の姿を知らない二人は、そんなことを言っているが、あらかじめそれなりに情報収集をしているはずだ。
俺が睨むと、こーくんが破顔した。
「冗談だにぁ。えーと、反則狙撃と暗殺者だっけかに?」
「情報提供は、早撃ちだったかしら?とにかく、ガンマンな子にもらったから」
こーくんやみーさんにそれをいわれるのは大変恥ずかしい。恥ずかしいが、それを突っ込むと後々まで言われるので、軽くスルーして、俺は疑問をぶつける。
「なんでここに?」
そう言った途端に、こーくんが不満そうに唇を尖らせた。
「なんでって、幼馴染と親友の勇姿を見にきちゃだめかに?」
「そうね。私も友人が楽しくしているのを見に来てもいいはずよ」
「わざわざこんな僻地にか?」
一織が大変微妙な顔をするのも仕方ない。
だが、僻地かどうかはこの二人には関係なかった。
「そこはほら、あれだに。赤いランプをかいくぐってドライブを…」
「青もあったわよ」
どうやら、警備隊やら、警察やら、軍やらの取締をまいて魔法自走を飛ばしてきたらしい。
市街地を抜けると道などあってないようなものなのだから、道から浮いての走行は簡単であるし、空を飛んでくることもできる。
ただ、空に浮かぶのはそれなりに出力が必要であるし、魔法も必要である。魔法自走としては高価な類のものであるため、所有者が大変少ない。
しかし、こーくんは魔法自走全般の研究者だ。
改造なども自由自在である。
「今回は途中から飛んだから、研究の名目で楽しく激走してきたんだに」
しかも、研究費もおりているし、ある程度は研究という名目で色々な許可もおりてしまうらしい。
途中から大変快適な旅立ったわとみーさんが笑った。
俺と一織は、同時に肩を落とした。
「領空侵犯だけは気をつけたから、都市だの国だのの法にちょっと触れたくらいにぁ」
「いや、触れるなよ。安全に旅してこいよ。あとで請求されても知らないぞ」
「最悪牢屋からでれないにぁ」
事故は起こしてからでは遅いから、決まりや法があるのだ。
「ちゃんと街中のルールは守ったから大丈夫だにぁ」
「スレスレなのはどうかしらとか、ちょーっと思うから、今度から街中ではハンドルを渡さないようにするわ。同乗している限りはね」
おっとりした調子で告げられた言葉に、俺は頷く。
こーくんのハンドルを持ったら危険な具合は、俺も身をもって知っている。レース時は構わないが、通常時にそれをやるといつか事故が起きるに違いない。
「それにしても、反則狙撃も暗殺者もいい顔だに。反則狙撃に至っては普段からそれだったらよかったねって言えるくらいだに」
「失礼千万なことをいうなよ。普段から染み出る男らしさ漂うだろうが」
「……現実って厳しいにぁ」
「あらあら、私は好きよ。あと数年すれば、きっと化けるわ。こずるさが前面に出た顔に」
一織が俺を憐れみの目で見つめながら、首を横に振った。
「余計に残念なことに…」
「……今の面が残念みたいにいうのはやめてもらおうか。普通だ。至って普通だ。標準的な軽さだ」
こーくんがニヤニヤと笑みを貼り付ける。
そんな顔をしても見れる顔なのだから、遺伝子の不公平さを感じずにはいられない。
「軽いのは認めてるんだにぁ?軽いからってイケメンとは限らないところが可愛そうだにな。まぁ、置いといて」
こーくんはどこで買ったのかわからない、美味しそうな串料理の一つを縦にして箸で肉を皿に落としながら、学園にきた本来の目的を教えてくれた。