「実は、魔機寵栄とここで交流会しようかって話がでてるんだにぁ。俺とみーさんはその特使っていうか、なんだにぁー」
俺は思わず首をかしげた。
こーくんが所属しているのは、魔機寵栄とは関係のない研究機関だ。
こーくんは魔法機械都市にしては珍しい、学校が併設されていない研究機関に就職しているはずである。
学校外の機関からゲスト講師として研究者が出向することも少なくないが、こーくんは人にものを教えることに熱心ではないため、魔機寵栄学園に使われることはそうないはずだ。
それに、ゲスト講師を学園の代表のようなものにするのもおかしな話である。
「正しくは、私が一応、魔機の講師だからで、寿は完璧に外注ね。本当の意味での特別大使みたいなものよ」
「そうだにぁ。学園にこれのためだけに臨時講師扱いで雇われてるんだにぁ」
一織が顔を歪める。
「なんでこれを選ぶんだ。選ぶなら、師匠の方がマシだ」
聞いただけでは、その師匠すら適切ではないという扱いである。俺も人柄などを見るとそのとおりだと思うが、たぶん学園側は『魔法機械』という分野にたけた教師を派遣したかったし派遣してもらいたかったのだろう。魔法機械学は魔法機械都市では当たり前のように扱っているのだが、専門知識を扱う教師となると数がすくない。魔法機械都市の教師は大抵研究者でもあるため、あまり、外に出たがらないし、都市側も出したがらない。
だから、外に出すのは大抵若い人間か、年老いた人間が多い。
こーくんはあれで優秀な研究者であるし、あの都市にしがらみが多い。その上、本人に外に移住する意思がないので、使いやすいのだろう。
「ふっふ。俺が来たかったんだにぁ。あと、妃浦はまた旅に出てるんだに」
一織が目に見えて嫌そうな顔をした。
誰だ、こいつを解き放ったのは…という顔だった。
こーくんが居たことが衝撃的すぎて、思わず昼飯を食いそびれるところであったが、結局、昼飯はこーくんとみーさんのテーブルに交じることで事なきを得た。
「今日は、反則狙撃ちゃんはずっとビックリハウスやってるのかにぁ?」
「そのネーミングセンスダサいな」
一織が皿の上にバラバラにされた串物をつまみながら、こーくんのネーミングセンスをけなす。
俺は肉と肉の間に挟まっていただろう野菜をつまんで食べ、指を舐めたあと、紙ナプキンで指をふく。塩ダレも指が意外と汚れるなぁと思いつつ、料理をつまんでいない方の手で、イベントの予定表を携帯端末に表示させた。
「そうだな。休憩のあとはまた持ち場に戻ってひたすら撃ちっぱなしだ」
「そんなに撃つわけでもないじゃないかに?罠とか仕掛けて、ちょっと楽してるに決まってるんだにぁ」
こーくんの言うとおり、罠を仕掛けている上に、本当に撃ちっぱなしてすぐに終わらせてはいけないため、それなりに楽をさせてもらっている。
廃墟にはモニタールームのようなものも用意しているため、ほとんど何もやってない時だってあるのだ。
緊張感は適度に保たないとダメであるが、ずっと魔法を展開しつつスコープを覗いているよりは楽である。
「でも、予定があるなら仕方ないにぁ…暗殺者に頼むに」
「俺も暇ではないんだが」
「生徒会室に連れて行って欲しいんだに」
「……お前、解っていて聞いているな?そうだろう?」
生徒会役員である一織は、このあと、生徒会室に戻らなければならないらしい。こーくんの言葉に、同じように答えた。
「解っていてきいてるんだに。早撃ちくんは結構フランクになんでも教えてくれるんだにぁ」
「ふふふ。あの子も可愛そうね、寿に根掘り葉掘り聞かれて」
みーさんのいう可愛そうは、こーくんのしつこさ以外にもかかる言葉であるような気がしたが、詳しいことはこーくんと早撃ち、こーくんの親友とみーさんにきいてみるしかない。
「連れて行くのはいいんだが、生徒会室になんの用があるんだ?」
「あれ?聞いてないのかにぁ。とりあえず、生徒会役員とお話し合いするって話になってるんだけどに」
一織が首を傾げた。どうやら聞いていないらしい。
一織は生徒会役員である上に、副会長だ。聞いていないのはおかしい。
そもそも、学校同士の交流会をしようという話が持ち上がっていることさえ、一織はしらないようだった。
本当に、持ち上がっているだけなのなら、教師同士、もしくはその上に話を持っていくべきだし、決まっているのなら相手校の生徒同士でどうこうすべきなのだ。
急に生徒会に、生徒以外が持っていくべき話ではない。
「おっかしいにぁー。こういうのは生徒会に話せって言われたんだけどに」
「仕方ないわね。一度理事の方に連絡してみましょう」
そういうが早いか、こーくんは携帯端末で理事長に連絡を取り始めた。
「そこは満が連絡を取るべきところじゃないのか?」
一織がもっともなことを言う。
こーくんは臨時講師扱いなのだ。
一応と本人は言っているが、ちゃんとした講師ならばみーさんが連絡を取るべきだ。
みーさんはゆるく首を振ると、皿の端に追いやられた串を一本手に取り、肉を刺す。
「本当に、寿は特別な扱いなのよ…だから、私より権限はあるわね」
「そうなのか。寿のパイプラインは侮れないからな…」
しみじみと呟く。
連絡をとっていたこーくんが親指と人差し指をくっつけて円にして笑う。何がオーケーなのかを問う前に、一織がため息をついた。
生徒会に直接話をつけにいくことがオーケーになったらしかった。
next/ hl2-top