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「本校としては、こちらとあちらの環境の違い、授業の違い、カリキュラムの違い、設備の違いなどを…」
学校間での交流会というのは、今まで行われたことがないわけではない。
俺たちが所属する学園は、どの国、どの都市にも所属していなく強いて言うなら学園自体が都市という集まりになっているものなので、よくそういった話が出る。
この学園が設立されたのは、魔法という新しい技術ができてからだ。
法術二大国家も、魔術都市も、自らが冠する技術に傾倒していて、魔法という新しい技術を最初は毛嫌いしていた。そのため、新しく考える場所が必要だった。
魔術と法術を持ち寄り、研究し、魔法を創る。
大人を説得するのは、多大な労力を要するが、子供ならまだ柔軟な考えができる。だから、魔術、法術に優れた子供を引き抜き、切磋琢磨させ、より優秀な者をもとめ、あわよくば、研究者として残らせる。
そうしてこの学園はできた。
優秀な成績でなにか功績を残せば、学園の評価は上がり、生徒も増える。
生徒が増えれば、学園に落ちる金銭も増える。
そうして、研究資金を稼ぎ出す。
そのため、この学園にいる研究員はほとんど、元生徒か現教師だ。
このシステムは、魔法機械都市の研究機関を真似ている。
魔法機械都市の研究機関のほとんどは、学び舎を抱えており、師になるのはやはり研究員だ。
そのため、教師のみを職としている人間は少なく、初等教育などは金持ちの子供くらいしか受けていない。ほとんどが自学自習をし、専門教育を受けるための試験へと挑戦するらしい。
「いいお話だと思います。学園の理事も乗り気なようですし、早急にお話はまとまると思いますが」
「そうですか。では、そのように。……ここからは私事ですが」
「はい?」
魔機寵栄学園からやってきた特別講師だという人間は、きつくは見えないが、キツネ目と呼ばれるたぐいのつり目を細めて、本当に狐のような顔をして笑った。
「なんや、この程度でうちの叶ちゃんふりよったんかい」
始終黙って見ていた、変わった羽織ものを着ている男が、なだめるように右手を動かした。
「寿」
「せやかてなぁ…おひぃさんのがかわいいやん?俺、おひぃさん推すわぁ…どっちにもうちの叶ちゃんはやらへんけどね」
久しぶりに、アレを思い出す口調を聞いて、俺は眉間に皺を寄せた。
アレのいる地方には、そういう方言があるのかもしれない。だから、この目の前にいるキツネ顔がアレの身内というわけではない。そう思いたいが、『きょうちゃん』というのは、どうも、アレを思い起こさせる。
とにかく、『きょうちゃん』とやらがアレであってもなかっても、俺が馬鹿にされているのは確かだ。
「なんや、会長さん、ちょっと、ムカァっときてますやろ?狭い、狭いわぁ…狭量やわ」
「アァ?」
思わず客人の前だというのに、低い声が出た。
器がでかいか小さいかはこの際おいておいて、腹がたつことを言いだしたのは客人の方である。
「寿」
今度は兄がキツネ顔をたしなめた。
兄はキツネ顔の知り合いらしく、生徒会室にキツネ顔を連れてきたときも親しげに話をしていた。
「えーでも、ちいさいやん?」
「根性はないと思うが。弟を馬鹿にするのは止めろ。たとえ本当のことでも」
擁護しているようでまったくしていない兄に、俺は肩を落とす。
兄に言われてしまうと、俺は弱い。
「こらあかんわ。マジ、ブラコンやないか」
キツネ顔がなにか呟いたが、よく聞こえなかった。
「とにかく。叶ちゃんふられて良かったんやない?こんなどうしようもない人とお付き合いとか許されへんわ」
「んだと…」
兄に言われたら気落ちするが、他人に言われると腹が立つ。
「なんか文句あるん?せやせや、会長さん、コンビ対決っちゅうんの前座で、なんや小さいトーナメントあるらしやん。それ参加せぇへん?うちの叶ちゃんの仇討ちや」
「なんで俺がそんなもんに参加しなけりゃなんねぇんだよ」
「だって、腹立つやん。こんな小さくて狭くて、甘ったれのお坊ちゃんで、人のいいなりの…」
「受けて立つ」
あまりにも腹立たしかったので、思わず言葉を遮って参加を決めてしまったのだが…なにか間違った気がするのは、気のせいだろうか。
兄がため息をついていた。
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