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急に風景が変わる。
森の中だった。
良平さんに呼び出されたのだろうかと思い、あたりを見渡すが誰もいない。俺は少し首を捻った。
あたりの気配を探ると、騒がしくしているところか一箇所。
俺が気配を捉えた途端にその気配が消えてしまったものと、弱くなったものが一つ。
目指すなら騒がしい場所よりも、消えた気配と弱くなった気配のある方に行ったほうがいいだろう。
俺はそう判断し、歩き出す。
途中で、弱くなった気配に、よく見知った人間の気配が走ってきた。
俺は足を止める。
そこに行ったほうがいいのかよくないのか。
考えた。
そのよく見知った人間は、厄介事を持ってくるタイプの人間だ。厄介事を持ってきた挙句、平然とした顔で肩代わりをさせ、そっといなくなる。
知っているから、そこに行くことを迷う。
だいたい、気配を消したやつも、大概巻き込まれ体質だ。
果たして厄介事を持ってくる人間と、巻き込まれ体質である人間の元に向かうのは正しいのか。
迷っていた。
迷いつつも、俺はウェストポーチから手袋を出し、それを装着した。
「あらぁ…バレちゃったかしら?」
木陰から現れた人物の殺気に、俺は目を細める。
「隠す気なし」
「ふふ、そうね。ええと……アヤトリだったかしら」
夏に会ったことのあるそいつは、刀の柄に手をのせて尋ねてきた。
俺は首を縦に振るだけで答える。
夏に会った時は、衝撃波を出しているのをみた。
直接戦ったことはないが、持っている刀を見る限り、糸との相性は最悪。
衝撃波をうちだす事ができるというだけでも、かなりの手練だと思っていいのだが、あの魔法自走が高速で移動している最中、一度もその姿勢を崩すことがなかったことからも、かなりものだと思っていい。
糸だけでは不利だ。
俺は、イメージし、呟く。
「召喚」
「あら…魔法が使えたの?」
使えるのは今のところ、召喚魔術だけだ。
力の量も、マーキングしておいた武器を召喚できるというだけで、何もしていない無生物や生物を召喚できたりはしない。
地面から出てきた槍を手に持つ。
「元相方から」
「なるほど。109番ね。……あら、私にもシステムが適用されちゃうのね。ここのシステムは面倒ねぇ…」
刀が鞘から抜かれる。
ひらりと華やかな色の何かが揺れた。
槍を盾がわりに、俺は動き出す。
「どこへいくつもりかしら?」
俺が向かうだろう場所に、見えない剣撃が飛んでくる。
少し横に避け、槍を横に薙ぐ。
見えない剣撃は同じような一撃に相殺された。
「ふうん…なるほどねぇ…私が使われるわけだわ」
納得したように頷いたそいつは走り出す。
「そっちに行かせると、私、怒られちゃうのよねぇ」
「理解。あちらに向かう」
「引っ掛けかもしれないわよ?」
俺は、首を一度横に振る。
怒られると言って楽しそうに笑ったそいつは、本当に俺の足止めをしに来たのだろうことがわかったからだ。
「本気ではない」
「うん、これはなかなか手こずりそうね」