ひとつの術式がこーくんに投げつけられた。こーくんはそれに口笛を吹く。
「乱射か、時間差か」
「一人で楽しんでいやらしぃ…」
「やーらしー」
どうやら人形使いと千想さんはどうしても俺に解説をしてもらいたいようだ。
だが、俺が解説する前に焔術師の魔法が展開される。
焔術師が第一射と口を動かした。
それを合図に魔術式のいくつかがこーくんに向かっていく。
こーくんはそれを避ける。
先程までとは違い、研ぎ澄まされた攻撃は、当たれば大ダメージであるのだが、命中させるにはまだ焔術師の技量が足りない。
こーくんにあてるために照準をこーくんに合わせたようだが、それもこーくんを追尾するようにはできていない。
「計算が足りてない」
「照準ー?それなら、反則くんと一緒にしちゃったらぁ…誰でもたりないよぉ」
「いや、それを差し引いても足りない」
動くものに照準を合わせたにしては単純すぎるのだ。
そこにきて、漸くこーくんが攻撃を開始した。
こーくんは、槍を投げつける。
こーくんの槍は、いくら投げてもこーくんの意思で戻ってくるというだけの魔法武器である。
魔法を貫通したりすることもなければ、理不尽な威力を持つ槍というわけでもない。
しかし、そのシンプルな性能を活かすことができるのが、こーくんだ。
炎に炙られながらもこーくんの投げつけた槍は、焔術師まで到達する。
もちろん、焔術師も魔法使いだ。結界くらいはっている。
槍はそんな焔術師の張った結界に弾かれ、僅かに軌道をそらす。
だが、焔術師は良平のような変則的な魔法使いではない。平均的な魔法使いより動けるほうではあるが、ずっと武術をしてきた人間の動きに勝てるほどの体術などは使えない。
そんなことは焔術師本人も承知していることだ。だからこその結界であり、力押しだ。そうすることで防御し、近づけないようにしている。
しかし、それでもこれだけの近距離で戦闘せざるを得なくなっているということを焔術師は配慮出来ていない。
「観客もおることだしにぁー。ちょおっと、派手にやろうかに?」
こーくんが俺たちのいる方を見て、声を大きくした。
焔術師も思わず俺たちの居る方向を見た。
焔術師とサングラス越しに目が合った気がする。
焔術師は何事もなかったかのように、指を鳴らす。おそらく、第二射の合図だ。
「派手といっても、武器もないのにか?」
焔術師は一織にこーくんのことを聞いていないのか、少し余裕な笑みを浮かべた。
「焔術師さんの魔法のが派手だけどにぁー。そこは気にせんでおこうかに」
「ハッ。じゃあ、もっと派手にしてやろうか?」
焔術師がそう言うと、一気に魔術式が発動した。様々な炎の乱れうちだ。
こーくんはそれに対しても口笛を吹きながら、結界を展開するのみであり、余裕綽々な様子で焔術師へと近づいていた。
「そう思えば、あの式、発動がながいけどぉ…なんか、焔術師ぃ、消耗してなぁい」
「あ、本当だ。これはどういうことかな、反則くん」
「俺に解説求めるな。というか、お前らのほうが詳しいはずだ。まぁ、この魔法は見慣れてるやつだが……猟奇の魔法、知ってるはずだ、人形使い」
人形使いはそう言われて、焔術師の術式をよく見つめる。
そして、合点がいったようだ。
「そぉかぁ!猟奇くんのぉ武器化魔法のぉ…改造だね!こんな風にもつかえるのかぁ…」
焔術師が使っている魔術は、良平の武器化魔法の応用だ。
武器化魔法といっても、実際に武器を作るわけではなく、魔術を固定する、力の消費を抑えるといった点を抜き出して使っているようだ。
武器化魔法と違い、固定した武器として使うわけではないのだ。消耗する弾丸として使っているのだから、一度出射された炎は元に戻らない。だが、焔術師はあるものを利用し、魔術式にそれを組み込み、固定することで消耗を少なくしている。
「ボクはわっかんないわけだけどねぇ?」
「簡単に言うと、魔法を固定して消耗を避ける術式が、良平の武器化魔法だ。それを応用して、式を固定する。式には、炎がその場にある限り、それを利用して発動するように書き込まれている」
「ああ…それで、森火事なわけか…」
そうこういっているうちに、こーくんは焔術師の結界の前に居た。
「ここなら、どうかにぁ。攻撃してくる?」
「自分の魔法くらいどうにでもなる」
こーくんに展開されている結界は何度も壊れているが、こーくんは何度もその度結界のはりなおしを行っている。さすがに、良平ほどのスピードはないため、炎に焼かれないようにフラフラと蛇行しながら焔術師に近寄っていたが、こーくんなら、一気に距離をつめることもできたはずだ。
「そうじゃないとにぁ。うん、まぁー…加点かに?でも、合格にはとおいにぁ」
どうやら、こーくんは焔術師の今現在の力量をみたかったようである。
こーくんは焔術師の結界に素手で触れると笑った。
風化したプラスチックが割れて落ちていくようだった。
こーくんが触れたところからボロボロと落ちていく結界の欠片が地面につく前に消えていく。
結界に触れていない方の手をこーくんが振るった。槍はそれだけで、こーくんの元に戻ろうとする。
「あ、流石に結界はりなおすくらいは予測済みだにぁ」
態と焔術師の結界をかするように投げられた槍は、焔術師をはさんで、こーくんの向かい側から飛んでくる。焔術師の背後に直撃するコースだ。
「俺は、それを壊し続ければいい話だと思うんだよにぁ」
「は?何…」
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