焔術師がこーくんの言葉に文句を言おうとしたときに、焔術師は何かがおかしいと気がついたらしい。槍が飛んでいった場所に振り返ろうとした。
「遅いんだ…に?」
だが、こーくんの思い描いたとおりに槍は動かなかった。槍がひとりでに止まったのだ。
いや、止まってはいない。
相変わらず槍はこーくんの手元に戻ろうとしているのだが、何かに絡め取られ、動けなくなっているだけだった。
「あれーこれ、どっかで見たにぁ…」
呟いたあと、こーくんは後ろに跳躍した。
こーくんの槍ではない槍が近づいていたからだ。
「油断大敵」
一緒に観戦していた人形使いと千想さんが、随分興奮した様子で声を上げた。
「アヤトリ!」
「すっごぉーい!かっこいぃー!」
こーくんの槍をその糸で一瞬止め、自らの槍をこーくんにむけたのはアヤトリだった。
「……なんで助けた?」
「義理」
こーくんに向けた槍で、こーくんの槍を弾いたあと、焔術師の結界内に入ったアヤトリは、一つ息をつくと、焔術師にもう一言呟いた。
「左に回避」
「は?」
そのあと、焔術師を突き飛ばし、アヤトリは右に回避した。
そのあとを、結界を切り裂き、風のようなものが飛んでいった。
「おやぁ?もしかして、満の仕業かな」
「そうだと思うが」
「あ、それぇ、今度は僕がなにかわからなぁい」
アヤトリのあとを追うようにやってきたのは、衝撃波とみーさんだった。
「やだ…ふふふ、お揃いで」
「お揃いでじゃないにぁ。ちゃんと止めといてちょーだいだに」
みーさんは謝るように手のひらを顔の前に立てたあと、こーくんの居る場所まで跳躍する。
「それにしても、この派手な魔法……邪魔ね」
左から右へ。
優雅に曲線を描いた刀は、半円を描いて、目的地に向かって衝撃波を走らせる。
焔術師とアヤトリがいない方向にあった魔術式を壊していった。
「なんだ、あのチートな攻撃は!」
焔術師が文句を言うのは仕方ない。だが、攻撃としては単調な攻撃であるため、避けることは可能である。
「衝撃波」
「そんなことは聞いてねぇよ!」
焔術師はアヤトリにしっかりツッコミながら、残っている魔術式を使って文化祭の客人を攻撃した。
「うーん…あの魔術式がある限りは、他の攻撃魔法つかえないのかにぁ?まだまだってかんじだにぁ」
こーくんが手元に戻ってきた白い槍を横になぐ。
「みっさんの真似事〜」
みーさんと違い、衝撃波など出せないこーくんはそう言って、魔法を使った。こーくんのつけていたアクセサリーの一つが輝き、衝撃波のような鋭い形をもった水の刃が白い槍に導かれるようにして、射出される。
その攻撃が飛んでくると、焔術師が舌打ちをした。
ただの攻撃ならば、焔術師の結界で問題なく防げるし、攻撃範囲が広くなく軌道がぶれることのないものならば、アヤトリも簡単によけられる。
問題は、その攻撃が水で形作られているということだ。
焔術師の残った魔術式も、魔術の元となる炎がなければ式が残っていたところで攻撃として魔法を形作れない。
「あれが簡単にできるってことはぁ…対処は簡単にできたんだよねぇー?」
人形使いがいやらしい事実に気づいてしまったようだ。
俺は小さく頷いた。
「それで、あのふたりは連携とか出来るわけかな?」
「んー…それなりに親しいとはぁ、思うんだけどぉ…糸と炎じゃ」
「あは。相性最悪だねぇ」
「いや、それより、トーナメントはどうなってるんだ」
課題が入り込んだ時点で、都合よく放送は差し替えられているかもしれない。
だから、これから二対二の戦いが始まっても大丈夫なのかもしれないが、どうも引っかかる。
課題がわかりやすく、簡単すぎるし、合格のラインや、課題の目的のようなものも見えてこない。俺が課題に巻き込まれたわけもあるだろうし、アヤトリがこうしてここに現れたのも意味があると考えたほうがいい。
今のところ、なんの意味もなく集められたようにしか思えない。
前の時の課題のように、何かおかしな点があるのに、何がおかしいということがはっきりとしない。