はっきりしているのは、みーさんや千想さんがここにいるのはおかしいということだ。当然、俺や人形使い、アヤトリがここに居るのもおかしなことなのだが、俺達は学園側から試される立場にあると思えば、多少おかしくとも納得ができる。こーくんと焔術師はトーナメントの会場で戦闘行為をしていて巻き込まれたと考えることもできる。だから、あからさまにおかしいのはみーさんと千想さんだ。特に、千想さんはおかしい。俺たちに何かをしようという気配さえ見せない。
なにより一番おかしいのは、このメンバーがこの場所に集まっているということ。いや、集められているのかもしれない。
もし、みーさんがアヤトリの課題でも、焔術師とこーくんの戦闘現場近くに転送される必要はない。それは俺達にもいえることで、こうしてここにたどり着いている意味があると思っていい。
「あ、忘れてたぁ…僕、課題だと思ってたからぁ…」
「課題ってあれかい?あの、学園側が出す、いやらしーいやつ」
「ふふ…そうそう。やっぱり、109番、前ぇ、それ、受けたことあるんだねぇ……」
「ま、そうだねぇ……ボクほどの天才だと、課題のいやらしさもすっごかったんだけどねぇ?」
その天才が、この学園に留まらず、魔法機械都市に居たわけなのだが。
「まま、いいじゃないか。ボクとしても昔のいやらしい課題とか殺伐としたこと言いたくないんだよねぇ。今はあの四人の行動なんじゃないかな」
その四人は、対峙したまま動かない。
四人の動きによっては、止めに入ろうかとも考えていたのだが、しばらくすると焔術師が、顔に手を当ててため息をついた。
「二対二になっている時点でトーナメントとしておかしい。あと、お前、エントリーなんざしてねぇだろ」
焔術師がそう言うと、アヤトリが、構えていた槍を下ろした。
「不可解」
「……あれじゃねぇの、また課題とかいうやつなんじゃねぇの」
アヤトリは少しだけ首をひねり、俺たちの方を向いた。
「反則」
呼ばれて、俺は首を横に振った。
「役立たず」
「おまえ、主人に似てきたんじゃないか」
アヤトリの一言に、俺は相方を思い出し悲しい気分になった。
焔術師とアヤトリに対峙していた、二人は、相変わらず動かないが、ふたり揃ってニヤニヤしている。
俺はそれが答えのような気がした。
「たぶん、課題だろ。あの二人、笑ってるし」
「うふふ、せいかーい」
「内容は説明しないんだけどに、課題って気づいた時点で、一応終了ってことになってるだにぁ」
「合図を送れば転送作業をしてくれるそうよ。ちなみに、寿と焔術師さんの戦闘は、ドローってことになっているはずだわ」
「ドロー…」
焔術師が不満そうな声を上げた。
その声を聞いただけで、なんだか、こーくんが焔術師に嫌われているような気がした。きっと気のせいではない。
「課題の合否は課題終了、採点後にお知らせされるんだにぁ」
「一回経験してるみたいだから、きっとすぐわかるわ。じゃ、合図おくるわね」
そう言って、みーさんが手を二度たたいた。
そうすると、みーさんとアヤトリ、焔術師が消えた。
「……のこ、され、たぁ…?」
「んー?どうなんだろね」
「残されたんだろうよ」
学園のシステムを使えば、これくらいの人数は一気に転送できる。
俺はため息をつき、こーくんを見る。
こーくんは俺を見て肩を態とらしく落とした。
「俺は知らないにぁ」
「君がいうと嘘っぽいことばだねぇ」
千想さんの言うとおりだった。それでも、こーくんはやれやれと首を振るばかりだ。
「ところでぇ、109番はぁ、追いかけなくていいのぉ?」
千想さんがここに来たのは、舞師を追いかけてきたということになっている。千想さんが最初にそう言っていたのだ。
「うん?ああ。見失っちゃったしねぇ…反則くん探してくれたりとかとか」
「しないからな」
「ちぇー。そういうわけだったら、しかたない。ちょっとフラフラしておくよ」
千想さんは来た時と同じように、何かに乗ってどこかに行ってしまった。
「思い切りぃ怪しいのにぃ」
人形使いも思っていたらしい。千想さんの背中を眺めながら、ポツリと人形使いが呟いた。
そのあと、人形使いは唐突に何処かへと転送された。
そうして、俺はこーくんとふたりっきりになったのだ。
「この転送のされ方、おかしいだろ」
「反則くんは関係ないから黙ってくれると嬉しいんだにぁ」
こーくんの、いかにも課題出題者である発言に、俺はこーくんをじっと見つめた。
「反則くんは、俺が巻き込んでもらったんだにぁ」
何か嫌な予感がした。