加点減点やさしくね


課題終了とか怪しい上に、腑に落ちないまま文化祭三日目。
こんな気になる状態じゃ夜も眠れないという繊細さもなく、しっかり眠って、ちゃっかり文化祭の実行犯もやって午後休。
実行犯の早撃ちをからかいに行くと、いっぱい食わされ、昼飯。
「御飯おごりだよねぇー?」
そんなふうに早撃ちに迫られながら、俺は財布の紐を閉めた。
「いっぱい食わされ、意気消沈な俺におごってくれてもいいと思わないか」
「むしろ、反則狙撃にいっぱい食わせたけど、負けてしまい心が折れてしまいそうになっている俺におごるべきー」
二人して、屋台街の飯を結局自分で払って食っていると、文化祭になってから見かけることのなかった相方がこちらに歩いてきた。
「二人とも仲いいな」
「仲いいよー」
「いや、そんなに」
俺と早撃ちとで意見が分かれたが、相方は気にせず俺たちと同じ卓につく。
「昨日課題やったんだって?」
「課題ー?」
「…進級の。俺がやったんじゃなく、人形使いと焔術師とオタクのわんこだ」
相方の猟奇が面を頭まで持ち上げて、俺の皿から料理をつまんだ。
「そう。うちの駄犬が教えてくれた」
「じゃあ、聞くなよ」
きっと猟奇のわんこのことだ、きっちり説明したに違いない。
「ま、課題のことというより、課題が終了したらしいんだが、まだ結果が届いてないことについて、反則はどう思っているかを聞きたい感じだな」
「まだ、結果が出てない?」
結果が出次第通達とはいっていたが、俺が課題を受けて進級した時もいやにあっさりしており、結果も早かったように思う。
「それはおかしいねー。俺、一応採点もやったけどー、加点減点がはっきりと決まってたよー。事細かに表があってさー」
俺の出題者でもあった早撃ちが、不審そうに答えをくれた。
「まだ、課題終わってないんだろうな」
あからさまに怪しい千想さんのことを考えてもそうなんだろう。
人形使いに対しては、まだ肝心の出題もちゃんとされていないように思うし、そう思うのが普通だ。
「やっぱりか。じゃあ、アイツ撒いてきて正解だな。俺が巻き込まれちゃたまんねぇから」
可愛そうに、アヤトリはまた猟奇に撒かれたらしい。
どこかできっとひとりしょんぼりしているだろう。最近、触れ合う機会が少なくなっているのだから、もうちょっとワンコに対する態度を和らげてやってもいいんじゃないだろうか。
しかし、俺も猟奇の相方だ。
昨日は巻き込まれてしまったが、できることならこれ以上巻き込まれたくはない。猟奇の行動にはよくやったと言わざるを得ない。
「だな。俺も、様子は気になるが、事後報告で頼みたいからな」
「二人ともいうねー。俺も事後報告お願いしたいけどね」
どうやら早撃ちも同意見らしい。
ならば、と俺は早々に話題を変えた。
「で、早撃ち。本来の目的がどれにあるのかわからないが、出題者として寿が居るんだが」
早撃ちの食事をする手が止まった。
どうやら、こーくんがこちらにきていることも出題者であることも知らなかったようだ。
こーくんは自分自身の行動をごくごく親しい人以外にあまり話したりしないので、早撃ちが知らないのも当然だ。
そして、今の反応で、こーくんと早撃ちの関係を察することができた。
早撃ちはこーくんのことが気になっているけれど、こーくんはそうでもないといったところだろう。
「へー、居るんだー。声くらいかけてくれたらいいのにー」
そんなことを言ってとぼけようとする早撃ちに、俺はニコリと笑って、一応、確認程度に二人の関係を尋ねた。
「寿とはどういう関係だ?」
猟奇が俺が食べていた料理を平らげてしまっているのを視認しながらの、軽い質問だった。本当に相方は容赦がない。
早撃ちは、少し迷ってこういった。
「ただのメル友?」
「そうか。じゃあ、いいことを教えておこうか」
俺の物言いに引っかかったのか、興味がないフリをしておきたいのか、早撃ちは皿の上のサラダにドレッシングをかけながら言う。
「んー。そうだね。いいことっていうなら教えてもらおっと」
そのサラダには既に違うドレッシングを早撃ち自身がたっぷりかけていて、今、再びかけることにより、野菜がドレッシングに溺れ始めた。
俺は表情を変えることなく、猟奇を軽く叩いてこういった。
「寿と特別な関係になりたいなら、遠くにいろ。そして、セックスするなら、タイミングをはかれ。誘われてもするな」
「……なんで?」
ドレッシングとサラダをかき混ぜていた早撃ちが、手を止めた上に、とぼけることもしないで尋ねてきた。
何か思い当たることがあるようだ。
「それは、自分で考えろ。じゃないと、意味がない」
近くにいて近づけさせてもらえないようになったのなら、もう、こーくんは早撃ちに落ちる寸前だと思っていい。
心の中で続けたあと、俺は席を立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
「お前が俺の飯を食うから、俺がまた買いに行かなければならなくなった」
「俺に行けって言わないんだな」
俺と早撃ちの会話を大人しく聞いていた猟奇が、軽口を叩いて、普段は黙らない早撃ちの沈黙を殺した。
「お前、いかないだろ」
「それもそうだ。じゃあ、ついでに俺の飯もこれで頼む」
そう言って銅貨を投げてきた相方に、俺は嫌そうな顔をしてみせた。
「ついでだから、ついで」
「仕方ないな。ついでだぞ、ついで」
「あはー。いってらっしゃいごゆっくりー」
相方が小さく喜ぶ声と早くも気分を切り替えた早撃ちの声を見送りの代わりに、俺は再び屋台と人がごった返す場所へと歩を進めた。
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