両手に皿をもって、もぬけの殻となっている……そう、椅子ごと居なくなった二人の痕跡を、空になった皿とドレッシングを避けるようにして寄せられたサラダに発見した時の間抜けさと虚しさをなんと表現したらいいだろう。
俺は机の上に、そっと皿を置き、ただ、ドレッシングが複雑な色で僅かに波打つ様子を眺めるしかない。
「……イタズラ?」
ぽつりと呟いた舞師の言葉に、俺は頭を抱える。
確かに、あの二人ならその可能性がある。
「昨日の課題を思うと、転送されたというのが、正解の気もするが」
「課題とか出されてたんですか。それは転送ですね」
「出されてたんだよ……転送だな」
俺と舞師は少し項垂れ、同時にため息をついた。
二人とも巻き込まれたくないといっていたのに転送されたということは、猟奇を追いかけてきたアヤトリか、焔術師、または人形使いがたまたまやってきて巻き込まれたと思っていいだろう。
「アヤトリはしかたないとして、焔術師か人形使いなら不運だな」
「え、その三人が課題、なんですか?今日は、焔術師と人形使いは用事があったはずです」
「……じゃ、アヤトリか?」
「そうなりますね」
俺と舞師はもう一度ため息をつき、椅子を引き寄せ、座った。
「じゃあ、遠慮なく飯食うか」
「ええ、遠慮なく」
そうして、俺は箸で一口大に料理を切り始めた。
すべてを黙々と切ってしまうと、ここにはいないはずのアヤトリが走ってきた。
「……何処、猟奇」
俺を見るなり、猟奇の所在を尋ねてきたので、俺は箸で何かをつかむこともできなかった。
「おまえ、と、一緒じゃないの?」
「反則、用無し」
おい、猟奇がいないと俺に用はないとはどういうことだ。
そんな言葉を飲み込んで、俺はもう一つ尋ねる。
「課題は?」
「理解不能」
アヤトリになると途端に口下手になるというか、コミュニケーションがとりにくくなる。アヤトリのいう理解不能とは、課題のことか、それとも、課題の話が出てくる今の状態か。
俺は二つともに答えることにした。
「課題については俺もよくわからないが、たぶん二人とも、課題の関係で転送されている」
「……二人?」
俺を睨みつけて尋ねてくるアヤトリに、俺の代わりに舞師が答えた。
「猟奇と早撃ちです」
アヤトリが目を見開いたあと、思い切り舌打ちした。
「反則、読め」
「……何を?」
何も読むものがない、この状態で読むものといえば気配くらいしか思い浮かばなかったが、一応尋ねる。
「気配。探索」
誰の気配かは尋ねるまでもない。
俺のことを友人だと思ってくれていて、俺が遠すぎる気配を探ると自分の居場所もわからなくなってしまうことを知っている。だから、アヤトリはそんなことをお願いしたりはしない。
けれど、例外はある。
主人の危機だ。
「猟奇、危ないのか?」
「可能性大」
「理由は」
「早撃ち、109番、友人」
たかが課題だろうと思う。 思いはするものの、主人思いのアヤトリが良平が危険だと判断した。それほどの友人関係が早撃ちと109番にはあるのだろう。
それはおそらく、夏休みにこーくんたちと出会う前からだ。
千想さんは、もとはここにいた人である。
つまり、この学園にずっと所属している早撃ちと知り合うチャンスは、何もあの夏休みだけではない。
ふと、誰かが夏休みに、『面白いの見つけた』と言っていたことを思い出す。
その、面白いのは、一体なんだ?
「……嫌な予感しかしない」
俺はそう言ったあと、舞師にお願いをした。
「舞師、悪いけど、何か話しかけてくれ」
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