すると、エスゴロクの中心で赤と青、二つのサイコロが回転するホログラムが出る。サイコロはすぐに止まり、赤は一、青は三を一番上に見せた。
「青が副会長様、赤が叶丞くんだ。数が多いほうが先行だ」
 七三眼鏡が眼鏡を光らせた直後、暗殺者のカラーリングが赤に、反則狙撃のカラーリングが青に変わる。芸が細かいあたりが魔法機械都市らしいと、俺は苦笑を漏らす。
 このあたりが魔法機械都市製らしいというのなら、この学園の研究塔が弄ったであろうところは何処なのだろう。この嫌な感じのコマのホログラムだけだと嬉しい限りだ。
「では、俺が先行だな……これは、学園流なんだよな?」
「あ、はい、学園流です」
 副会長は考えるように少しだけ視線を逸らしたあと、エスゴロク全体に視線を走らせた。その場の空気が一瞬凍りついたかと思うほど、冷たい、その場を観察する視線だ。
 何かを納得したのか、副会長が何度か頷くとその冷たさはすぐに消える。そのあと、副会長はもう一度赤いボタンを押した。
 赤いサイコロが再び転がり、二を出す。
 反則狙撃が勝手に動きだし、一マス目に足を踏み出すと、今まで何もかかれて居なかったマスに一気に文字が刻まれる。
「二マス目、右へ」
 反則狙撃の前のマスは二マス目から道が分かれていた。副会長は無難に、何も書かれていない右へと移動させる。
「一マス前にスタートへ戻るを置く」
 自由に仕掛けられる三つの罠のうちの一つだ。副会長の陣地は俺のゴールであるため、最後の一マスで止まってしまったら俺は地獄を見ることになる。最後の最後でスタートになど戻されてしまったらたまったものではない。
「ほな俺の番やな」
 俺もサイコロを転がす。青のサイコロは四を示した。
 暗殺者もまた、勝手に動き出す。反則狙撃の楽天的な動きとは違い、暗殺者は音もなく静かに綺麗に歩くものだから、何故だか自分自身がいたたまれない。
 此方も二マス目から道が分かれていたのだが、どちらも四マス目は指示が書かれている。俺はちらりと先のほうまでみて、左に暗殺者を進めようとした。
「二マス目、左……ワオ」
 しかし、そう簡単にはいかないらしい。進めようと口を開いた途端、反則狙撃にニマス目を撃たれ、左の二マス目が消失してしまったのである。
「……ああ、消えるのか……避ける程度だと思ったんだが」
 あっけらかんと言った副会長を見ると、最初から邪魔をするつもりだったようで、コンソールを弄っていた。
「そのあたりが学園流っちゅうことすかねぇ……」
 俺もコンソールを弄り、右へと進んでしまった暗殺者に片手に短剣を、もう片方に投げナイフを持たせる。
「みたいだな。では、反則狙撃らしく狙っていこうか」
 副会長があくまで爽やかに笑う。
 俺はその爽やか過ぎる笑みに何故か戦慄を覚えた。
「ほな、暗殺者らしくせなならんのですかね……」
 四マス目にたどり着くとすぐさま二マス戻った暗殺者を操作し、ナイフを一本投げる。
 副会長のゴールである俺の陣地へ向かう最後の一マスにナイフが刺さり、マスが消えた。
「最後手前でもきえるのか……」
 副会長が何かを考えるように、ポツリと呟く。
 俺は、消えてしまったマスを確認したあと、副会長が最初にしたようにエスゴロク全体を見渡した。
 俺が設定を変えたせいで木々が生い茂っており、若干見づらいマスもあるが、俺は現在留まるマスからの最短距離とそこに書かれている指示を流し見る。
 大体は、何マスか戻るか進むで、一回休みが全体でいくつかあった。特に厄介なマスはないように見える。
「仕掛けられる三つの罠がくせもんちゅうことかな」
 首を傾げていると、反則狙撃がまた動き出した。
 今度は銃を撃ったのではなく、副会長がサイコロを振って動かしたのだ。
 俺は、反則狙撃の邪魔をさせたふうを装いナイフを二本、暗殺者に投げさせる。
 そのナイフのうち一本は反則狙撃の足元のコマではなく、その隣のオブジェクトである岩に刺さり、もう一本は暗殺者のコマのとなりの草地に転がり落ちた。そう、一本は投げたというよりも落としたのだ。
「あかん、暗殺者にはなりきられへん」
 見物客からノーコンだ、下手くそだと笑われながら、俺は暗殺者を操作し、ナイフを回収する。
 俺の操作の下手くそさに、副会長もいやに優しくふわっとした顔で笑っていた。薄青同盟の連中はそれにうっとりするばかりである。
 俺はヘラヘラとした笑みを貼り付け、サイコロを転がす。
「意外と面白いわ、これ」
 早く終わらせるのはもったいないと思いながら、俺は暗殺者を動かした。
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