そうして副会長と邪魔をしながらトラップを置きながら、サイコロを回し、五巡目くらいだっただろうか。
 副会長は何故か三以上の数字を出さず、自らにトラップを使い二歩進めたあと止まったマスで更に四歩進んだりして、次は俺の番だとサイコロを回した。
 マスに書かれた指示が一斉に動く。
「そう思えば、変わるんだったな」
 副会長の声を聞き、そんなことはすっかり忘れていた俺も、そう思えばと動き終わったマスを見てぎょっとした。
 現在暗殺者が留まっているマスに一マス戻るの表示が出たのだ。それだけならば、その指示に従って暗殺者が勝手に動こうと俺も驚いたりはしない。
「置いた罠も動くんかい!」
 そう、副会長が仕掛けていた罠も動いていたのだ。
 現在暗殺者が留まっているマスの一つ後ろはその副会長が仕掛けた罠で、スタートに戻るの指示が書かれていた。
 俺が回していたサイコロが止まるよりも早く、マスの指示に動いた暗殺者に、俺は急いでコマンドを入力する。
 暗殺者は一マス戻るために回れ右をした後、ナイフを投げ、飛ぶ。ナイフの刺さったスタートに戻るは壊されて、その後ろのマスへと暗殺者が着地した。
 俺が安堵の息をついていると、暗殺者は更に勝手に動き出す。暗殺者が着地したそのマスにはニマス戻るの表示があり、その戻った先には一回休み、その後ろには三マス戻るだ。一回休みを壊してしまうと永久機関ができてしまい、前にも後ろにも進めない。
 大人しく一回休むべきなのかもしれないが、俺の出すサイコロの目次第では、そこで何度も休むことになる。
 俺は再び急いでコマンドをいれ、一回休みに短剣を突き刺すと、その上に暗殺者をのせた。
「それは、マスの扱いになるんだな」
 心底感心したという副会長の声を聞きながら、俺は更にコンソールでコマンドを叩き込む。
 俺の出したサイコロの目は不幸なことに三だ。そう、再びここに戻ってくるまでコマを飛び越えたりの操作をしなければならないのだ。
 それならばと入れたコマンドにより、暗殺者が一歩踏み出したところで短剣の鍔を残った足を引っ掛け、短剣を蹴り上げ、短剣を再び持たせる。二マス目に足をつけたあたりで元いたマスにナイフを投げて破壊し、二マス目から跳躍した。
 暗殺者のスペックは大変素晴らしかったらしい。
 ニマス分の穴を飛び越えてくれた。
 ホログラムとはいえ暗殺者の素晴らしい動きに見物客から拍手と歓声が沸きあがったくらいである。
「すごいな、得意なのか、こういった操作が」
 副会長が本当に楽しそうに笑って、俺の手元辺りを見た。
「いえ、ちょっとお付き合いで……」
「ああ……よくわかる。俺の友人にも得意なのがいる」
 副会長というと一緒にいるのを見かけるのは生徒会会長と、会計だ。会長を目で追っているとよく副会長を見かけるので、間違いない。会長は副会長の弟なので、もしかしたら会計がこういった操作が得意なのかもしれない。それとも魔法機械都市にそういった友人がいるのだろうか。
「だから、コマンド入力がうまくて速いのもわかるが……策士だな」
 副会長の笑みが何故か、とても寒い。とても爽やかに俺に微笑みかけてくれているのだが、内臓まで寒い気分である。
「策士とか……なんのことやらようわかりませんが」
「ナイフ、わざとマスの外に落として、触れるか試したんだろう? あと、こちらに投げたナイフもそうだな。マス以外に刺さるか試した」
「いやそんな、偶然からの発見ですわ」
 俺がとぼけるたびに吹雪を呼んでいるような気がしてならない。
 確かに副会長に言われたとおり、俺はどれだけコマがマス外に鑑賞できるかを確かめていた。だがそれは、こういうときのために確かめたわけではない。
「だが、おかげでこちらもできそうなことがわかった」
 そういった副会長の笑みが、何故か変わる。どうみても相変わらず爽やかで涼やかな笑みなのだが、何か底意地が悪く、してやったりといった雰囲気のあるものに変わった気がしたのだ。
「こうか」
 なんだか抜け目なさそうに見える副会長がコマンドを入力すると、反則狙撃が銃を連射する。
 俺の前に続くマスの道にいくつか銃弾を撃ち込み、壊すと、また連射し、同じ場所に銃弾を撃ち込む。ちょうど、ライカでマスを壊し、フレドで壊されたマスを撃ちなおした形だった。
「手前からニマス戻る、三マス進む、一回休む、スタートに戻る」
 副会長が声を張り上げると、副会長がいったとおりの指示のマスが壊されたマスのかわりに現れる。壊されたマスの指示を空いた場所に埋めた形だ。
「研究塔が弄ったのは、コマだろうな」
 俺が思ったように、研究塔が弄ったのはコマだけなのかもしれない。しかし俺が思った以上にコマを弄ってくれたようである。
「学園流過ぎて涙しか出ぇへん……」
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