アヤトリが風紀委員長として職権乱用をし、転送してもらった現場には、アヤトリの目的の人はいなかった。
俺は、アヤトリからきつい眼差しを向けられ、もう一度気配を読む。
「……気配が、消えた」
「魔法、ですかね」
「魔法だろうな、リンクも繋がらないしな」
アヤトリの盛大な舌打ちが心に刺さる。
とても態とらしく苛立ちを表現してくれたのだ、それは心に刺さりもする。
「魔法の気配読むのは得意じゃないからな」
「私も得意ではありません」
俺は尋ねるようにアヤトリに視線を向けた。人に舌打ちをしたアヤトリも得意ではないらしい。明後日に方向に視線をそらされた。
武器を専門としている武器科の三人では、確かに魔法というものに敏感ではないし、こういった魔法絡みの何かをされると弱い。
「そう思えば」
魔法に敏感な人が学園に来ていたことを思い出す。
たしか一応課題を出すためにこの学園に来たみたいなことを言っていた。協力をしてくれないかもしれない。
直接頼むより、何か人参をぶら下げるか、脅しをするかしたほうがいいだろう。
俺は、脅すということにおいてこの人ほど効果的に行える人はいないと思う人物に連絡をいれた。
流石に演習中などではないため携帯端末を持っていたし、リンクとは違い何かに邪魔もされていないようで機能もすべて使えそうだ。
『デートのお誘いか?』
「いや、違う」
声は、いつもの調子であるので、恐らく今は休憩時間なのだろう。
携帯端末に連絡を入れてすぐに、誰であるかも確かめずこの冗談を言ってくるあたり、らしすぎる。
「そこに寿はいるか?」
『一応、俺が案内役ということになっている』
「じゃあ、今すぐ猟奇の位置を特定するように脅してくれないか」
『解った。……おい、寿、今すぐ良平の位置を探り出さねぇと、キョーが嫌いになるってよ』
子供の喧嘩のような脅し文句だ。
そう思いながら、携帯端末から漏れてくる音に耳をすませた。
椅子が倒れる音がして、もう一つなにか大きな音がしたあと、こーくんの声が聞こえる。
『え、え?キョーちゃんがなんだって?え?いや、キョーちゃん心優しいからそんなことせぇへんよ!……、するかもしれひん』
こーくんの俺に対する認識を今すぐ改めてやりたい。
何故そこでしないと言い切れない。
しかも、何故そこで動揺する。
『もれなく、俺も嫌ってやろう。満も嫌ってくれていい』
『あらあら、そうなるとボッチねぇ……ふふ』
みーさんもその場にいたらしい。
俺が唐突に連絡をとり始めたのを、無言で見守っていた二人があまりの緊張感のなさに呆れた顔をしているが、俺はこーくんに止めを刺すように言ってやる。
「今すぐ、寿を嫌いにならないのにはどうしたらいいかわからない」
『ひーどーいー!……っていうのは、置いといてにぁ。なんや大事でもあったんかに?あったところで、俺が動いて、なんか得はあるかにぁ?引き受けるほどのみりょーくてきなことを言って欲しいんだに』
どうやら脅しは空振りだったらしい。
こーくんのこの様子から考えると、こーくんは千想さんがしようとしていることを知っている。知っていて、この態度をとっている。
無駄な時間を過ごしてしまった。
こーくんが今すぐいうことを聞いてくれそうないいことが思い浮かばなかった俺は、一織に謝る。
『悪い、無駄なことをさせた』
『いや、寿はあとでシメておく。魔法の気配の感知なら、十織もできるが?』
「ああ、そこ、もしかして、生徒会室とかだったりするのか?」
『そうだが』
俺は躊躇した。
会長を使う必要はあるのか、いや、きっと、会長はこの課題とは別口だ。
課題のことを考え、俺はふと思いつく。
「今回はいい。ありがとう」
『そうか?他に俺がすることはあるか?』
一織は少し不思議そうにしていたが、俺の助けになってくれるらしい。
俺はその時がきたらまた連絡を入れると言って、通信を切った。