そうして、俺の提案で再び職権乱用し、文化祭の転送の当番中であった人形使いを転送してもらった。
急ぎたいのに待たされているアヤトリが相変わらず不機嫌そうに虚空を睨み付けるので、俺は仕方なく魔法感知をしてくれている人形使いに携帯端末で話せなかった詳しい話をする。
人形使いは、その間もしっかり魔法を感知してくれたので、俺も安心してペラペラしゃべった。
「で、どの辺りが怪しいか?」
「感知能力はぁ、追求の方があるんだけどねぇ……」
「あいつは一枚噛んでそうだからダメだ」
「もしかしてぇ、ちょっとしたトラウマ?」
人形使いが首を傾げた。
言われたとおりトラウマであったが、俺は曖昧に笑うことで答える事を避ける。後々、からかわれても面倒なのだ。
「うん、まぁ、置いておいてぇ……こっち、だとぉ…思う」
人形使いの指す方向に、ちゃんとした場所の確認もせず、アヤトリが飛び出して行った。
「早いなぁ」
困ったような顔で人形使いが呟く。
こちらが声をかける暇もなかった。
「そうだな。方向さえ解かれば、アヤトリのことだ。あとは勘で行けるだろう」
「それはまたすごいですね」
アヤトリの勘は、主人相手には抜群に働く。
それ以外に働かないわけではないが、精度が違うし密度も違うような気がする。
まさにいつだかに誰かに言ったディスティニーってやつだ。
そんなことを言ったら、アヤトリは嫌がって舌打ちをするのだろうが。
「俺達もアヤトリ追うぞ。ただし、確実に感知してもらいながらな」
「なんだかぁ、とても便利に使われてる感じぃ」
「便利に使われてくれ。恐らく、109番を止めるのが、アヤトリと人形使いの課題だ」
先日のこーくん達が課題を出した現場には、こーくんの都合で巻き込まれた俺と、人形使いとアヤトリと焔術師がいた。
俺は、こーくんがちょっとした内緒話をしたかっただけなので、課題とはなんら関係がない。
しかし、他の三人は別だ。
課題を出すためにあの場所に呼び出されていた。
特に人形使いは何をされるわけでもなく、俺と一緒に戦闘を見守り、明らかに怪しい人物を見せられるだけで終わっていた。
「そっかぁ、それが課題ならぁ……減点されちゃってるかもぉ」
こーくんはあの時点で課題であると明言している。
ただし、それが誰の課題であるかは明言していない。
こーくんが出したのは恐らく焔術師の課題だ。
そうでなければ焔術師と戦闘などしていない。
それを思えば、みーさんと戦闘をしながら俺達の居た場所に来たアヤトリの課題はみーさんが出していたことになる。
しかし、それは焔術師と合流する必要のあることなのかといえば、答えは否。
焔術師のように祭りの一環として戦闘をしてしまえば済むことだ。
誰の注目を受けることなく、アヤトリは課題を出され、そして、焔術師の戦闘現場に合流した。
しかし、俺達が出題された時のようにアヤトリの課題も二重であったのなら話は別だ。
合流させることによって、何かを怪しんでもらいたかったと考えることもできる。
「俺が呼び出してここにきたからか?だが、ヒントが微妙で少なすぎるだろう。しかも、今は転送の当番中だったんだろう?いくら109番が怪しくても、流石に……」
現在、学園は文化祭中だ。
祭りで使っている場所に、簡単に行けるようにするために、学園の魔法使いたちを色々な場所に配置されている。 もし、千想さんが、その配置された場所に行かなければならないのなら。
「いや、恐らく、大丈夫。結果的に止められたら合格だ」
そんなことを言っている間にも、人形使いは魔法の気配を察知して道案内をしてくれていた。
「反則くんがぁそう言うならぁ……そうかもぉ」
「絶大な信頼ですね」
「前の課題、人形使いもトラウマなんじゃないか?」
あれは色々とトラウマを植え付ける事件だった。
人形使いも曖昧に笑って話を流すと、木々が避けるようにしてできた広い場所を指差す。
「あ、たぶんそろそろつくよ」
そこは先日、こーくん達が戦闘した場所だった。
どうやら俺達は焔術師やアヤトリ、そして前に俺達がきた時とは別の方向からここに来たようである。
木々の焼け焦げている姿や切り倒された姿がとても痛々しい。
「……あれはなんですか?」
先日の戦闘跡を残すその一角。
そこには真四角の黒い穴が空いていた。
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