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「なぁんや、悔しそうな顔だにぁ?」
叶ちゃんが連絡をしてきて、一織君が何か思いついたのか出て行ってしまった生徒会室。
黙って不機嫌そうな顔をする生徒会長さんに寿がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべてそう言った。
態とらしい声と笑顔に大変腹が立つ。
もし、会長さんが寿をまともに見ていたら、この前のように啖呵を切ったのかもしれない。
しかし、今、会長さんは不機嫌ながら上の空。
「叶ちゃんがおひぃさんを頼りにしたんは当然の運びやと思うんだけどにぁ?ホンマ、ブラコンだに、会長さんは」
「……うるせぇ、本望だ」
寿はまるで、叶ちゃんが一織くんに頼ったから会長さんが不機嫌になったみたいなものの言い方をしたけれど、内訳はそうでないことを知っている。
「ふふ……意地悪さんね」
こっそり呟くと、寿には聞こえていたらしくて声に出さず『シー』と言われてしまった。
気がつかないフリをしたが、黙って、寿と会長さんの様子を見守る。
叶ちゃんは、確かに一織くんに電話をかけたし、会長さんを頼みの綱にすることはない。
会長さんが直接現場にいるとか、どうしても関わらなければならないというのなら別だけれど、今回は、どうしても関わらなければならないことでもなかった。
叶ちゃんは、会長さんを守りたい、ひいては、守らなければならない対象として見ている。
だから、頼らない。
「ま、採点結果は合格としときましょか。そこまで、ブラコン貫いとるんやったら、壁はあったほうがいいんだろしにぁ」
「……」
答えない会長さんを置いて、寿は生徒会室から出ようとする。
「あ、ちゃんと、交流もしてもらうにぁ。そんときは妃浦がくるんだったかに?」
「ええ、私と一緒に来てもらうわ」
「というわけだに。さ、みっさん、祭り楽しむでぇ」
「本当、お祭り好きね」
ため息をついたあと、先に生徒会室から出てしまった寿をちょっと見送り、振り返る。
「大丈夫よ、私も、寿も保証してあげる。あなたは、立てるわ」
寿は何も言わなかったけれど、態とブラコンだと称してからかったけれど、合格にしたのが何よりもの証拠だ。
「何」
「隣に立ちたかったんでしょう?」
兄のように。
兄ではなく。
たとえそれが、どういった関係の枠に収まろうとも、それらしい形で立てるだろう。
「大丈夫よ」
会長さんはきっと、ずっとブラコンだ。
寿が課題で見なければならなかったのは、会長さんのコンプレックス。そして、会長さんの力量。
何か言おうと口を開いた会長さんに背を向けて、生徒会室を出る。
「第三者だからって、言いすぎたかしら」
少し楽しい気分になりながら、廊下で待っていた寿に尋ねた。
「防音完璧だからきこえなかったにぁ。……なん言うてたかはなんとなーくわかるんだけどに」
笑うと、寿もそれはもう、楽しそうに笑った。
「兄弟そろって不器用さんだにぁ」
「何言ってるの、あなたたちみたいになったら、正直ドン引きの領域よ!可愛げがなくて嫌だわ」
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