気配を探った時、気配の確認が出来たのは、猟奇、早撃ち、千想さん、人形使い。
その四人だ。
こーくん、みーさん、焔術師の気配は感じることができなかった。
それもそのはずだ、その三人は魔法結界がはってある生徒会室にいた。
確認のできた四人のうち三人は、俺が舞師、アヤトリと一緒に転送された時には、確認ができなくなっていた。
「あ、ここぉー魔術が使われてるぅ」
人形使いを呼び寄せて魔法の気配を探ってもらい、やってきた場所には四角い穴があった。
穴には地下へと続く階段があり、如何にも隠された入口といった風体を晒していた。
「もしかして、109番が……」
なんだか気まずそうに109番という舞師をチラリと横目で見て思う。まるで身内が悪いことをしたというふうに見える舞師は、千想さんが嫌いになったわけではない。逃げていたのは、もっと情けない理由に違いない。
「んーん。これはねぇ……もともとぉ、ここに使われてる魔術ぅ」
建物自体に魔術が使われているということだ。
それならば、学園側が何かするために使っている場所ということになる。
こんな隠された入口から入らなければならないような場所なのだから、この学園のことだ。それなりに後ろ黒いことに使われているのではないだろうか。
「如何にもすぎる隠し部屋への通路って感じだな」
「そうだねぇ。この感じからしたらぁ、ゲームとかだとぉ……お宝とかぁ隠してるって感じぃ」
学園には、一応伝説級の武器がある。
それを体育祭の景品にするくらい、学園にとって重要性のないものではあるのだが、品物だけ見たら大変な貴重品だ。
こういった場所に隠されていてもおかしくないだろう。
「ですが、この学園でしたらもっと機能的に隠していそうなものですよ。これは如何にも過ぎます」
灰色の機能性だけを重視して作られただろう箱を繋げたような廊下を足早に歩きながら、少し壁に触れる。
排気口など見当たらないのだが湿気てはいない。見た感じも匂いも、カビがあると感じさせない。
入口くらいしか地上に続くだろう穴を見ていないが、空気がこもっているということもなかった。
入口だけにしては少し不自然なほど換気が出来ている。
それはきっと魔法の恩恵だ。
「何かしらの傷もないように見える……、この明かり、魔法か?」
「そうだねぇ、魔術だねぇ……」
いくら魔法でも、劣化はする。
うちの相方が得意とする魔法を固定する術式を使ったとしても、それは永遠に効果を得ることができない。
魔法も限りがある力なのだ。
「明るすぎないか」
廊下はそれほど長くはなかった。
一本道であった廊下の先は壁になっていた。
「年内に作られたならぁ、こんなものかもぉ」
年内ならばこんなものということは、この建物は新しいものということになる。
壁の手前で立ち止まると、人形使いが壁に手を当てた。
「幻じゃないみたぁい」
俺は人形使いと同じように壁に手を当て、その壁を撫でる。
特になんの変哲もない壁のようだ。
手のひらを返し、壁を軽くたたく。
「中身がない音がするねぇ」
「ハリボテか」
ここに千想さん達がいるとしたら、青磁もここにいる可能性が高い。
青磁は魔法の解呪などはできないはずであるから、壁が薄いと感じたら強行突破しているはずだ。
「突き破れそうだな」
「そういう突破力はやっぱりぃ、武器科の人だよねぇ」
人形使いが俺と舞師を交互に見て、首を傾げた。
俺はその問いかけに、首をゆるく振ったあと、舞師を見た。
「……私、ですか」
壁を壊せと、俺と人形使いに期待された舞師にその気はないだろう。
なにせ、ここにはアヤトリに強制されてきたのだ。
だが、アヤトリがいなくなっている今、どこにいってもいい。俺も人形使いも熱い性格ではない。止めることはない。
それでも舞師がここに居るのは、迷っているということか、腹をくくったのか。
この乗り気ではない様子から、迷っていると思われる。