「そろそろ決着つけたいとは思わないのか?」
「あなたはなんでもお見通しですね……」
人形使いと同じように首を横に倒す。
「どうだろうな。結局は他人事だ。誰かと違って一生懸命にはなれない」
「やだぁ冷たいのぉ」
そうは言うものの、人形使いも同じ意見のようだ。後ろに下がって、壁を壊してもらうのを待っている。
「ヤケになってみるのも手だぞ」
他人事だから好きなように言える。俺も後ろに下がり、舞師の背中を押す。
少したたらを踏んだ舞師は、俺達に振り返ったあと、壁に視線を向けた。
「……私も、他人のせいにしてみましょうか」
壁の方を向く前、舞師が仕方ないなという顔をした。
この男には、こんな顔がとてもよく似合う。
舞師は少し壁から後退すると、しゃがみ込み、地面に手をつけた。
「こういうのは得意じゃないんですが」
舞師が手を握り持ち上げるような仕草をする。
「この手にあるのは石塊。手に馴染む石塊。先は鈍くも鋭く、無粋な器」
「へぇ、法術なんてぇ使えたんだぁ」
「しかも武器化魔法ときたか」
舞師の術言が終わる頃、舞師の手の中にはひと振りの剣のような石が出来ていた。
「魔法の干渉を受けてくれる場所でよかったねぇ」
この建物に魔術がかかっているということは、魔法干渉を受け付けない場合もある。
舞師は剣を持ち替え、いつもどおり遠心力を付けて剣を振るった。
「まったくです。私の法術精度では剣の形をした石を取り出すので精一杯ですからね」
壁は簡単に、音もなく崩れた。
音をたてないほど粉々になったというわけではない。
この壁が魔法で出来ていたから、そうなったのだ。
幻といった類ではなく、ちゃんとした物質だったのが、魔法を材料にし物質として存在していたものなので、本物の石と違って、砕けても音はしない。重さのない物質だ。しかし、本物とは違って再生もする。
人形使いが急いで壊れた壁の向こう側へと走った。
俺は、壁を壊しておきながら二の足を踏む男の背中を乱暴に叩いたあと、壁の向こう側に入る。
迷いながらも後ろについてきた男の逃げ道をなくすように、壁は元に戻った。
「あぁ、なんかぁ、修羅場が一旦終わったのかなぁってかんじぃ」
人形使いが言ったとおりの光景が、俺達が入った部屋には広がっていた。
糸を巻きつけられた状態で両手を上げ降参のポーズをとった早撃ち。
少し不満そうな顔をした千想さんも、三重の結界だろうものの中に入っている。
その二人と距離を取るように、猟奇をかばっているようにも見えるアヤトリと、アヤトリに庇われているようでいて、不機嫌な顔をしアヤトリを顎で使う主人っぷりを見せつける猟奇がいた。
「これってぇ、僕はぁ、出遅れたってことぉ?」
「俺にはワンコが暴走した挙句、猟奇がその暴走を罵りたい顔をしているように見える」
宝が隠してあるのではないかと言っていた部屋には何もなく、廊下と同じように何もない四角い箱のような空間があるだけだった。
アヤトリの目的である猟奇はここに居るし、もっとも怪しい千想さんもここに居る。
もちろん、猟奇をここに連れてきただろう早撃ちもここにいるのだから問題ない。
ただ、千想さんの目的が相変わらず解らない。
「今更助けに来てくれたのかい?」
こちらに気がついた千想さんが、俺と人形使いを素通りして舞師を見つめていた。
「助けに来たわけでは、ないんですが」
「相変わらず、決められないんだ?」
舞師は視線をそらすことなく、堂々と頷いた。
「ええ」
「ふふ、それだけははっきり言ってくれたんなら、今回は吹っ切れてるってことかな」
二人の様子が、少し寂しく見える。
俺は、何かに流されていると感じながら、それを一言も口にだすことはなかった。
「僕はぁ、今回も不合格っぽいなぁ。どうしよぉ、進級できなかったらぁ」
なんだかちょっとした恋愛劇に付き合わされたような気分になりつつ、俺は人形使いを少しばかり哀れに思ったのであった。