俺がなんだかんだ交代時間を変わってもらい、今日の分の文化祭での仕事を終わらしたあと、良平にことの顛末を話してもらった。
「佐々良が、ちょっと面白いことがあるって言うんで、連れられて行ったら千想がいて、ちょっとばっかしバカ犬の囮になってくれとかいうからなってやったら、バカ犬がバカ正直に俺を助けにきた挙句、拘束とかしやがるし、俺を離そうとしないし、しかたねーから千想を結界で拘束した」
「なんや、無駄足感満載やな」
「それがただの課題だった上に、恋愛劇にしかならねぇんなら、あの野郎、オトすしかねぇな」
良平に説明してもらっている間に、何気ないふりをして俺達の輪の中に加わった一織がさらりと怖いことを言った。
シメるとかオトすとか、本当はこの人、会長と同じおぼっちゃまじゃないのかもしれない。
「そんで、進級は?」
「さーな。バカ犬には、しばらくお預け食らわしてきたから、何もきいてねーわ」
可愛そうに、お触り禁止どころか閲覧禁止もかかっているようだ。
「それでよく耐えられるな」
何気なく耐え性のなさそうなというより、耐える必要性すら感じてなさそうな一織が良平に尋ねる。
「耐えてんじゃねーし。耐えんのは、駄犬であって、俺じゃねーの。愛の差ってやつじゃねーの?ま、耐えられたらご褒美あげんのが、主人の役目だけど」
ご褒美とやらを与えるのが今から楽しみなようだ。
「わぁ……なんや、爛れとるわ……」
「……」
無言で返した一織が、ちょっとイイなぁという顔をしたのは気のせいということにした。
「それにしても、ただの課題やったとして、恋愛劇の方の結末はどないなってん」
ただの課題だとは思っていないが、そちらの方も野次馬根性でとても気になる。
「千想は諦めてる風だし、斗佳ははっきりしねぇし、うちの弟かっつうの」
なんだかいつもより、言葉が荒いなぁと思っていたら、どうやら一織的に苛立たしいことの多い恋愛劇だったらしい。
「そなんや」
聞いておいてなんだが、触らぬ神に祟りはない。
俺は流そうと、相槌だけ打った。
しかし、そこは我らが副会長様。流してくださらなかった。
「ああ、そう思えば何処かの誰かは振られたばかりだっけなぁ?」
「ええ、ああ、まぁ……弟さんに」
「だよなァ?」
誰ですか!恋愛劇の行方を野次馬根性で尋ねてしまった人は!
……俺だけど。
「俺としてはそっちのが気になんだけど?どうなの、最近は」
相方まで俺を吊るし上げ始めたようだ。ここには味方というやつがいないのだろうか。いや、最初から相方は味方ではなかったのかもしれないし、一織はこの件に関してもとより進軍も激しい敵だ。
「どうって、どう……」
「諦めたとか、諦めないとか」
俺は良平と一織の視線から逃げるためにあたりをゆっくりと見渡した。
視界の端にこーくんが見えた。呑気に手を振っている。こーくんも神出鬼没だなぁ。
「気持ちの整理は、ちょっとついとるけど」
こーくんの隣にいるみーさんに何かをいったあと、みーさんが何かを憐れむように俺を見て、おざなりに手を振ってくれた。
二人に手を振り返せる状況ではないのが残念だ。
「その整理状況がしりてぇんだけど」
一織の今日の進軍は心臓に痛いなぁ。
こーくんは相変わらず俺を見て楽しそうだ。手の中に持っている何かを宙に放ったり、受け止めたりして手遊びをしている。
「振られて悲しいわぁくらい」
「それは、振られてすぐくらいにも聞いたきがするなァ?」
俺の意識は答えたくないばっかりに、良平と一織が答えを待つこの空間よりも、こーくんとみーさんの居る場所に向きつつあった。
こーくんの手を離れたり、その手の中に収まっている物体をみつめ、光を反射して輝くそれは、魔法石かなぁ…とぼんやり思う。
「ややわぁ、そういう追求は、無粋っていうんやでぇ」
「無粋を承知で聞くのが野次馬ってやつじゃねーの」
俺の視線の先に気がついたこーくんは、それを見せびらかすように俺に見せ、それにキスをして口を動かした。
『これ、欲しかったんや』
「……なぁ、良平」
「なんだ、答える気になったか?」
俺の気がそぞろであるということは、良平にも一織にも分かっていることだ。
それなのに、急に俺の語気が強くなったことに、首を傾げることもなく茶化してくるあたり相方は強かであり、俺の相方らしい。
「千想さんは、あれや。佐々良に連れてこられて会うた時、なんやしてへんかった?」
「俺が見た範囲じゃ、ただ立っていた。けど」
こーくんは俺の視線の先でもう一度軽く手を振って、俺に背を向けた。
俺の様子の変化に、俺の視線の先を追った一織は俺とこーくんの様子に舌打ちをした。
相変わらず、一織の舌打ちは鋭い。
「感じた範囲じゃ、何か転送したあとだったな」
「なーんや、一本取られた感じかい」
俺は大きくため息をつき視線と意識を一織と良平の居る場所に戻した。
「俺はアレが何してようが、諸悪の根源らしいやつに一発入れるのみだ」
まぁ、怖い!