なんだかんだと良平と一織が追求してくるのを有耶無耶にし、逃げたつもりでいる俺は、とある人物を待つことにした。
とある人物はいつもこの廊下を通って、部屋へと戻ることが分かっている。
俺は、現れた人影に銃口を向ける。
俺に気がついたその人は、両手をあげて降伏を示した。
「何か用かな?」
「ちょっとお話ししたかったさかい、この方が気持ちようお話しできるかなと思て」
「あまりこういう状況下でお話しすることなんてないから、気持ちは良くないかなぁ……それに、学園のルール違反じゃないかい?」
武器科の人間は、自分の得物を持つことを禁止されている。
「咎められなかったら問題ないんとちゃいますかね」
学園のルールを破ったのはこれが初めてではない。
学園側は、時々こうしたルール違反を容認する。
それが必要だと感じている時がそうであるし、学園側に益がある場合もそうである。
「学園に依頼されとったんですね」
もし、こーくんが持っていたものが千想さんが転送したものあったのなら、学園から依頼されていたこーくんと同じく千想さんも学園に依頼されていたことになる。
「そうなるね」
本当に降参してくれているのか、それとも隠す必要がないのか。
銃口を向けた人影、千想さんは簡単に俺の推測に答えてくれた。
「学園の依頼はね。生徒に課題を出すこと。こちらの報酬は、ここから、生徒たちに邪魔されても出られたら、魔法石はこちらのものになるってやつ。邪魔をしてくる予定なのは、課題を出されているたったの三名。その三名が何を使って邪魔をしてきても、逃げさえすればいい。もちろん、こちらが何を使っても許される。それが、元恋人でも、友人でも、なんでも」
千想さんは、人を使うということに慣れていない。
表情が皮肉げに曲がる様子は、それを良しとしていないことを意味している。
千想さんがいうことが本当ならば、佐々良は使われていたことになるし、舞師も大義名分として、もしくは逃げ回られず、いうことを聞いてくれるなら実行犯として使っていたのかもしれない。
「こーくんともお仲間なんですやろ」
そうは思うものの、こーくんが面白半分に俺の前に姿を現して石を見せびらかしたのを、こーくんは千想さんに言っていない。
俺にそうやって魔法石を見せびらかしたのは、捕まえられるものなら捕まえてみろという挑発であると同時に、この課題が終わってないことを教えてくれたのだ。
こーくんはあまり親切な性格ではない。けれど、そうしてくれたのにはワケがあるのだと俺は思う。
こーくんがあの都市を出てこられたのは、俺に釘をさすことが目的ではなく、まして、学園との交流を目的としていたのではないのかもしれない。
都市側の目的は、恐らく、こーくんがもっていたあの魔法石だ。
「千想さんは、嘘つくん、下手くそやんな」
「……君たちは、そういうところも似ているね」
君たちというのは、俺とこーくんのことなのだろう。
都市側の目的はあの石でも、こーくんの目的はたぶん違う。
「そでもないですよ。こーくんのが、情は厚いんとちゃうかな。まぁ、置いといて。千想さん、嘘つかへんかったでしょ?恋人、取り戻しに来たんやろ」
千想さんが大きな大きなため息をついた。
俺の言ったとおりであるらしい。
俺から視線をそらし、俺が一応向けている銃口に背を向ける。
俺が撃たないということを確信しているようだ。
「あの唐変木にもそのへんが解かればいいんだけどねぇ。どうしようもなく馬鹿だからね。……諦めてあげようと思うんだよ、今回は」
「今回だけなんや?」
「そうだよ、今回は」
銃を下ろすと、タイミングよく千想さんが振り返った。
今回だけという割には、少し悲しそうだ。
「……俺は、そんなに親しいはないんやけど、ある人が」
「ああ、ことごとく邪魔してくれた人がいたね。彼かな」
一織がボヤいたことを思い出す。
「一発入れるそうやさかい」
「殴ってくれるの?」
「いや、たぶん手套でこう」
俺は手を素早く落とす動作をする。
千想さんが自分自身を抱きしめた。
「怖い人だねぇ……」
「そやねぇ……」
ひとしきり腕をさすったあと、千想さんは歩き出す。
「さすがに、二回振られるとショックも大きくてねぇ……適当に帰って泣くことにするよ」
「さいですか」
「じゃあ、またね。もう、会わないかも、しれないけど」
どこに帰るかは解らない。
けれど、魔法機械都市ではないのだろう。
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