息を吸う。
ただ一つ、ただ一所、ただ一点。
狙う。
息を止める。
引き金をひく。
衝撃、視界のブレ。
それとはまた違うもう一つの視界が重なり、少し気分が悪くなる。
俺は息を吐く。
もう一つの視界に映された光景に舌打ちしたい気分になりつつも、視界を閉ざす。
『気にしてねーみたいだけど、もう一回、撃つ?』
相方の言葉に、先程の光景が蘇る。
何かと策を練ってくるだろうと思われたが、堂々とテストされているだろう人間の前に現れたこーくん。
そのこーくんを見送る良平と、学園の客としてこーくんを見送る会長。
『いや、俺はこーくんにお土産持って帰ってもらいたいから、邪魔してるだけだし、ね?』
外に出ようとしたこーくんに、テストされている人物が何かを尋ねた。
こーくんが怪しすぎることや、魔法石のことは漏らしてある。ここで尋ねたり、止めたりしなければテストは確実に零点だ。
俺はそれを邪魔して、こーくんを外に出した。
『わっるぅー。じゃあ、俺はそれとなく邪魔しつつ、このまま白々しいお見送り続けますかね』
『よろしくたのむ』
良平からのリンクが切断される。
俺は銃についたスコープをもう一度覗く。
俺が狙った人物は、そろそろと辺りを見渡していた。
狙った人物である青磁が俺を見つけないのは、恐らく、良平がいるせいである。
青磁は良平がいる限り、いつも大局を見ずに良平のことを考える。良平がさり気なく邪魔をしてくるのなら、良平にとってその襲撃がどういうことなのかを考えているはずだ。
良平の意思如何によっては建前ですら動かない。それが青磁である。
「青磁も極端だな、進級どうでもいいのか」
呟いた後、青磁の隣に居る人物を見る。
青磁は銃弾を避けなかった。気がついていなかったのだ。しかし、その銃弾から青磁を、会長が守った。
正しくは、俺の邪魔をした。
結界を張って邪魔をしてくれた。
結界を張るタイミングはばっちりだった。
「やっぱりそこは、知らせておいたのか?」
「いや、俺は、ノータッチだ。あいつが、いやがるからな」
ならば、会長自身が考え、そうしたということになる。
会長はこーくんにあまり好意的には見えなかったのにも関わらず、お見送りをしていたのはそのためなのだろう。
俺の攻撃を防いだということは、俺に関わることを良しとしたのか、それともただ防いだだけなのか。
この距離からは読み取れないものが多い。
「ばれたかな……」
「バレたというほど大層なものなのか」
「それもそうだな」
祭りもあと二日の五日目。
怪しすぎるのに沈黙していたこーくんから連絡が来た。
それは今日帰るという内容で、お見送りよろしくなどとあった。
俺はいつ帰るのかだけ聞いて、その時間に実行犯をしているかどうかを確認し、気分しだいと返信をした。
これを誰かに伝えるべきか否か悩んだが、こーくんが最後に皆には内緒と伝えてきたので、ばらしてやることにした。
それが、今朝のことだ。
俺は、まず一番最初に会った知り合いにそれを伝えようと思った。
「よう」
グリグリと銃口を人の頭に押しつける。
「……」
「いつもとは立場が逆だな」
「……、違う。至近距離でおまえの後ろに立てるのは、そうない」
銃選択主催のイベントで、俺が実行犯をしている日は必ず一回やってくる客の後ろに立った俺は、少しだけ満足していた。
何せ、その人物の後ろに立つなんてことが、そう無い出来事だからだ。
「それに、おまえは、人との距離は開けて攻撃するタイプだろう。こうして至近距離にいる方がおかしい」
「確かにそうだ。……今日はちょっと、聞きたいことと伝えたいことがあってこうしてみたんだが。いや、本当に、後ろをとれるとは思ってなかった」
思い切り舌打ちをされる。
そいつが、珍しく少し気が散っていたせいもあるだろう。
俺は銃をそいつ、暗殺者に押しつけたまま、まず、聞きたいことを聞く。
「恋愛劇はどうなった?」
「めでたしめでたしだ」
投げやりに答えられた言葉に、それが少し気が散ってしまっている原因だと知る。
「めでたしめでたしはいいことじゃないのか」
「いいことだが、コンビは解散だ」
暗殺者のいうことで、俺の知りたいことがわかった。
暗殺者の相方は、舞師で、俺はその舞師が千想さんとどうするつもりなのかを知りたかった。よりを戻すにしても、千想さんと一緒に学園を出ていくとは限らない。だが、今回は、学園を出ていくつもりのようだ。
「なるほど。じゃあ、伝えたいことを伝えるとするか」
「……脳天気な奴が帰る知らせなら、俺も受けたが」
「へぇ……じゃあ、伝えることはない」
「あいつは、秘密とかいって、知り合い全員に伝えるくらいのことはするぞ」
こーくんの性格なら確かにそうする。
「盛大に見送れってことか」
「さぁな」
暗殺者の返事を聞くと同時に俺は引き金を引いた。
「寿も、わがままだな」
左手を下ろし、監視部屋に戻る。
暗殺者が居なくなったその場所に、既に用はない。俺は次の客を迎えなければならない。
「帰るなら俺がこれやってるときがよかった」
経過は知りたいのだが、できることなら何もしたくない。
けれど、このままなのも何か釈然としない。
「仕方ないな。ひと仕事するか」
学園に一泡吹かせてやろう。
素敵な考えが浮かんだ気がした。俺は実行犯中ではあるが、良平にリンクさせる。
『何』
『一緒に飯、どう?』
『……この前、一緒に飯食って巻き込まれたことを思い出すんだけど、どうなのか』
監視部屋で客が入り口から入ってくるのを見守りつつ、弾数を確かめる。
『巻き込まれるのを待っとったら、つまらんやろ』
リンクをしているため、良平の笑い声は聞こえなかったが、間が空いてから、答えが返ってきたため、笑っていたのだろう。
『こっちが巻き込むってか』
『そう』
『面白そーじゃん。じゃあ、食堂で待つかな』
『よろしく。じゃあ、いっちょ仕事してくるわー』
『おーがんば』
思ってもいないことをリンクで告げられ、俺は長距離銃を仕掛けてある場所へ向かいつつ、笑いそうになった。
『適当にな』
リンクを切ると、小さく息を吸う。
客は四人。
俺は何処に誰を追い込むかを考え始めた。