そして今、俺はこーくんを気持ちよく見送る為に、随分遠くから青磁を狙い撃ちした。
俺とは違ってちゃんと現場でこーくんをお見送りしてくれている良平が、リンクでちゃんと現場の様子を伝えてくれたお陰もあり、こーくんがどういう状態で帰ろうとしたかも理解できた。
こーくんは学園から出ていく許可を貰った上で、学園のものを持ち帰ろうとしていた。
その学園のものが、こーくんが俺に見せつけてきた魔法石である。その魔法石の持ち出し許可は下りておらず、譲渡もされていなかったし、売買もされていない。
それを短時間で調べてくれたのは、俺が巻き込んだ良平だ。
良平は調べた情報を俺だけに教えてくれた。
その上、遠くから学園の味方となる連中を邪魔してやろうという俺のサポートをすべく、こーくんのお見送りにも行ってくれた。
「それで、おまえは俺に何をしにきたんだ?」
「俺は、学園の言うとおりになるのもしゃくだが、寿のいいようにしてやるのもしゃくだから、おまえの邪魔をしにきた」
「……一発撃たせてくれた理由は?」
俺の後ろの暗殺者は、俺が撃つ前から傍にいた。暗殺者は気配を隠そうとしなかった。
俺はそれを無視して、こーくんの見送りに集中した。
暗殺者が本気ならば、俺はその場で銃を構えることさえできなかっただろう。暗殺者の気配が読めないというのは、致命的である。
「学園の言うとおりになるのもしゃくだといっただろう。二発目は撃たせないつもりできたんだ」
「もともと、二発目は撃つつもりがなかったが」
それは二発目を撃つ必要はないという自信と、こーくんが二発目を撃つまでもなくやってくれるという信頼からだ。
ゆっくり立ち上がり、振り返ると、暗殺者は肩を下げた。
「もし、うまいこと邪魔しすぎてコンビ戦闘参加できなかったら困ると思ってな」
俺が二発目を撃たないだろう事は、暗殺者には容易に予想できたようだ。
暗殺者はこーくんの親友であり、俺の好敵手といわれる人間だ。それくらいの予想は簡単だっただろう。
「へぇ。そういうの、あまりこだわらないだろう」
「近々も最後なんでな」
文化祭のコンビ戦闘を最後に、近々は解散するようだ。
有終の美を飾りたいと思うのは、普通かもしれない。
けれど、何故だかそれだけが理由だとも思えない。
「ところで、寿はどうなったんだ?」
自然と話は終わろうとしていた。
俺は一応それに乗る。
「そうか、見てないし、見えないよな。ちゃんと門の外に出た。門の外で人形使いが待っていたっぽいんだが、俺も最後まで見ていないから、気配だけ追わせてもらった。寿はうまいこと逃げたみたいだ」
魔法石は結局誰の手にあるのかは、この時点ではわからない。
きっと、少ししたらこーくんから自慢げな報告がくる。
本当は、友人の恋人を奪いに、そして一歩を踏み出さない友人を連れてくる為に依頼を引き受けたんだろうに、まるで、その石がとれたことで俺達を出し抜いたといって馬鹿みたいな報告をくれるに違いない。
そう思ったところで、ふと、友人の恋を間近で見ていた人物を目の前に見つけ、ここに居る理由をまさかと思いつつからかい半分、言葉にする。
「捨てるためにつかった石くらいじゃ、この学園は俺をどうこうしようもないし、コンビ戦闘とりやめもしないと思うぞ」
「……」
無言の暗殺者に、まさかの図星かと瞬きを数度繰り返す。
渋い顔をした暗殺者が、ぽつりと呟いた。
「本音を言うと、ひくか」
「どうだろうな」
少しだけ、思考をまとめるように黙ったあと、暗殺者は首を振った。
「羨ましいだけだ」
その一言にどれだけの言葉が要約されたものか、俺には推し量ることができない。
たとえこれだけ近くに居たとしても、俺は知らなかった。
「もう、慣れた」
聞こえないと思ったのか、それとも無自覚なのか、こぼれた声に、知る。
「そうか」
この人は寂しい人だ。
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