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悔しいと思ったのだ。
「お前がここに来るのは予想外だった」
青磁がそういうのを、鼻で笑って、結界をとく。
もうこれ以上、アレからの攻撃はないだろう。
「たまたまだ」
俺の思考はいつも同じところを行ったり来たり、抜け出すことなく繰り返す。
兄は俺にとって絶対で、兄ができて俺ができないのは仕方がないこと。
兄が俺よりも上の位置にいることを当たり前に思っていた。
今も、そうであるように思っている。
だが、アレが言った。
兄にはなくて、俺にあるものをアレが好いたといった。
それは、俺が頼りないが故に手を伸ばしたと言うように聞こえた。
おそらく、守りたいとか支えたいとかそういうことなんだろうとは思う。
しかし、俺はそれが悔しかった。
「たまたま、ねぇ…」
含みある言い方をする良平の顔を殴りたい。
「ハァ?」
「いいえ、何にも。そうか。たまたまか。ま、それもありか」
一人で納得をする良平は俺がどうしてここにいるか、理解しているのかもしれない。
俺は決めたのだ。
「なんにせよ、礼を言う」
警備犯変装時の口調は、とても味気ない。
礼を言われている気がしなかった。
「まぁ、取り逃がしたが」
兄は当然のように、アレと同じ場所に立つ。アレは兄を守りたいとか支えたいとか頼りないとか思わない。
むしろ、アレは兄に頼ることだってあるだろう。
先日、兄にアレから連絡がきたように。
それが、無性に悔しかった。
兄にはなれない。
兄と同じにはできない。
理解している。だからこその劣等感だった。
けれど、俺が魔術師という後方支援や遠距離からの攻撃を担当する人間でも、誰かに頼られていいはずである。
俺のずっと先にいる気がする兄のように、兄とは違う位置で、立っていいはずだ。
そう、魔法機械都市から来ていた満とかいうやつが言うとおり。
俺は、誰かの、ひいてはアレと、兄と、同じく、立っていたい。
支えられたいわけではない。守られたいわけでもない。
だからこそ、今、悔しい。
随分と、兄が上にいることについて、悔しいだなんて思おうとしなかった。
ああ、そうか、俺は諦めていたのか。
気がつく。
兄という上限を作っていた。
兄を越えようとは思っていなかった。
同じが無理であることを知っていたから、兄という上限の下につこうとしていた。
兄を越えなければならないという言葉を考えるだけで、兄を越えようともしていなかった。
兄とは違う何者かにもなろうとも思っていなかった。
反発することさえ、諦めていた。
同じを厭ったくせに、兄の劣化コピーになっていた。
「バカじゃねぇの」
理解していたはずだ。
兄にはなれない。
兄と同じようにはできない。
それは、兄なる必要はないし、兄と同じである必要もないということだ。
つまり、こうもいえる。
兄を越える必要だって、ないのだ。
俺は笑う。
「越えてやろうじゃねぇの」
せっかく、悔しく思ったのだ。
それに、諦める必要もない。
「なんだって?」
「なんでもねぇよ。それよりあの狐顔はどうなった」
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