俺がなんだかんだと理由をつけて協奏から逃げ、掲示板に表示されたコンビ名が一番下にずらりと並び、トーナメントのために線がひかれる頃、猟奇が俺の隣にやってきた。
「静聴って誰だ?」
「一年生のコンビで、聴音の」
「あーあれか。相方がいい動きするくせに、まだ名前ついてねぇの」
「コンビ名、静かに聴くだし、静寂って呼んでやろう」
「ああ、いいかもなァ……あとで他の連中にも広めてやろう」
選ばれたコンビは12組。三年生は、ほぼいないとはいえ、参加数を思えば少なくなってしまったものだ。
俺達カーニバルの初戦は今回唯一の一年生コンビ静聴。聴音は法術を邪魔することが得意な魔術師として名を馳せているが、最近目立ってきた静聴というコンビは聴音だけがその名を広めているわけではない。
近々が武器科で近距離同士のコンビとして珍しいのと同じように、静聴というコンビも珍しかった。静聴は魔術師と法術師、遠距離攻撃コンビだ。
「今日はバネッサちゃんの気分」
「今日も、だろ。じゃあ、俺はせいぜいあの二人の魔法を邪魔してやりましょうかね」
猟奇が鉄の棒を引きずりながら簡易に作られた控え室に行くのを見送る。俺は召還用の魔法石を取り出し、ちらりと掲示板を見る。
今回もトーナメントは意地悪なつくりをしていた。
今回は最後まで勝ち残った3チームが乱戦となり、最後に残っていた人間が組んでいるコンビが優勝となる。
最後の乱戦までには二つ勝ち上がる必要があった。俺の友人達は皆、最終戦まで行かなければ見ることもない組み合わせである。
俺にも猟奇にも優勝してやろうという気持ちはない。俺は猟奇に付き合ってコンビ戦闘に出ているし、猟奇は魔法の実験、コンビネーション、使い勝手を見るために戦闘に参加している節もある。
何より実力を確かめたい、魔法使いどもに認めさせたいという気持ちもあるため、優勝できるかどうかは二の次なのだ。
ただ、俺も猟奇も面倒であるとか、他の理由でもない限り、負けて楽しいわけではない。できるだけ勝ちに行くことにしていた。
「疲れるのだろうな、乱戦」
ポツリと呟き、手の中の石を握り締め、俺もまた簡易な控え室に向かった。
もう既に俺より先にどこかのフィールドに飛ばされて、相方は控え室にいなかった。
俺は控え室に置かれてあった携帯端末をいじって、何処で戦闘が行われるかを確認する。
「……遮蔽物がないな」
どの辺りをスタート地点とするかは大きく二つに分けられ、二つに分けられたどちらかを陣地とし、自陣ならば好きなように転移して貰える。
ただし、どちらが割り当てられるかはランダムであり、今回のように一年生が遮蔽物がある場所を陣地とし、俺達が遮蔽物のない場所を陣地とするような不運な巡りにもなったりした。
遮蔽物、隠れる場所がたくさんあるということは一年生にとっては幸運であり、俺と猟奇にとっては不運だ。
猟奇は近接で戦うため、遮蔽物はあまり関係ないが、俺は遠距離から狙い撃つため、そこそこ遮蔽物があったほうがいい。
中距離で銃を使う場合でもそうだ。遮蔽物に隠れながら撃つのが銃を扱うものにとっての定石だ。
俺は端末に示されたフィールドを頭の中で記憶と、現在のデータと照らし合わせ、希望の場所を端末にいれた。
すると、すぐに視界に光が飛び込んでくる。
光が消えると、そこはもう既に、フィールド内だ。
森と平地、両方が存在する、なだらかで凹凸があまりない野外演習場。
後輩達は森の中、猟奇は森と平地の間の何もない場所にいる。
俺はゆっくりと気配を消しながら、開始の合図を待った。
『どっから撃つ予定?』
急にリンクが繋がる、頭の痛くなるような音がした。
『撃つときに教える予定やけど、南のほうから』
森は北に行くにつれ、深くなっている。
俺は転移して貰える、演習所の端に近い場所にいた。
そこから更に、演習所のギリギリ端までフラフラと向かおうとしていた。
『了解。じゃあ、ちょっとがんばることにするか』
『そうして貰えると助かるわぁ』
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