俺と相方の話し合いが終わった頃、開始の合図が鳴り響く。
気配を撒くように、抑えたり、開放したりを二、三回繰り返したあと、急に気配を殺しきる。
目的の位置まで魔法に邪魔されることなくこれたのは、たぶん、猟奇が前線でがんばってくれているからだ。
俺はヴァネッサを召還し、その場に設置すると、スコープを覗き込む。
後輩達が猟奇に襲われ、苦戦していた。
静聴というコンビは魔法使いコンビだ。
両方とも、魔法を邪魔し、その隙に攻撃をすることを得意としている。
自らを守る術を持っていて、その守りが堅いときは相手の魔法使いの魔法を暴走させ、自爆させるという手も使っているようだ。
その両方の戦法を知っていながら、猟奇は、魔法で後輩達に挑んでいた。それは、後輩達に魔法を邪魔される前に魔法が使えるという自信と、それを見せ付けるという猟奇らしい意地悪である。
『猟奇、もうちょい、西に……静寂』
『聴音は?』
『対魔術師は静寂やし。確実にしとめたるから』
『外したら、晩飯おごりで』
『あたったら?』
『当たるのは当たり前だろ。じゃ、西に飛ばすからよろしく』
飛ばすとはどういうことだろう。
そう思いながら、俺は静聴と猟奇をスコープで追いかける。
何かあったときのために、もう一つ視点を用意して、遠見の魔術を使う。
「……飛ばすって、転送か!」
思わず声を上げてしまった。
邪魔を得意とする後輩相手に、術式の速い展開を繰り返し、魔法で後輩達を逆に邪魔していた猟奇が、珍しく転送の魔術を使った。
人を運ぶほどの魔術は力を使ってしまうため、一日に二回ほどしか、相方は使わない。
後輩で遊んでいるのか、それとも、何か新しいことを試すために、後輩が邪魔なのかは解らないが、大胆なことをしてくれたものである。
だが、転送魔法のわりに、猟奇が何か大掛かりな魔術を使ったようには見えなかった。もしかすると、もうすでに新しいことを試したのかもしれない。
なんにせよ、もう一つ視点を用意していなければ、静寂の行方がわからなくなるところであった。
しかし、さすが相方と褒めていい。いい位置に転送してくれた。
俺はゆっくり銃の位置をずらし、スコープと視点の位置を合わせる。
二重になった視界がぴたりと合わさったとき、わずか、銃身を動かし、数を心の中で数えた。
ゼロを数えた瞬間、息を止め、引き金をひく。
反動が身体ごと、視界を揺らした。
『……撃破』
『あたったか……』
ほんの少し残念そうな雰囲気を出すのはやめにしてもらいたい。
俺は銃をそのままに、視点をずらす。
猟奇はなお、聴音と戦っていた。
聴音は猟奇に十八番を奪われ苦戦しているようだ。
このまま助けず傍観していても、猟奇は勝てるだろう。
だが、俺もできるなら早くかって、できるだけ鋭気を養いたい。
『やってもうてええ?』
『いいけど、めっずらしい』
『連戦ってつらいし?』
身体と銃身を再びもとの位置にずらし、銃口をゆっくり下げる。
猟奇がいつもの棒を振っている。
その先には、いつもの魔法の刃ではなく、なにかもやのようなものがついていた。
「……魔法?」
俺の魔法に関する感度はさほどいいわけではない。
遠くにいては、魔法かどうかも判断できない。
そして、それがなんの魔法かどうかも、発動して、見える形でなければ解らない。
良平が棒を一振りすると、その靄は聴音へと飛び、素早く形を形成する。
それは水の魔法だった。
聴音はそれを結界を張ることで完全に防御してしまったため、そんなに強い魔法ではない。
ただ、かわった形態の魔法であるというのは確かだ。
『あと、三十秒』
スコープからのぞいた世界は相変わらず狭い。
猟奇がスコープから消えた。
『二十』
もう一つの視点にいる猟奇は棒をくるりとまわし、宙に魔術式を展開している。
『十、九、八……』
術式は俺が数を数える間にも、複雑な式を宙に描いている。
俺はみたことがなかったし、聴音もみたことがなかったのだろう。猟奇の邪魔をするために、いくつか攻撃力の低い魔法が放たれた。
『二、一……』
猟奇があいている方の手で二回、何かをした。
たぶん、指を鳴らしたのだ。
俺が引き金を引いたすぐ後、猟奇の術式が二つ、発動する。
一つは結界を崩す魔法。
もう一つは、猟奇を守るための結界を貼る魔法。
そして、聴音はあっけなく銃弾に貫かれた。