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一年生コンビが表情を変えたのは、俺が魔法使いらしい魔法を使って、二人に攻撃を仕掛けたときだ。
いくら有名な二年生といっても、舐めやがってと、一年生の二人は舌打ちまでしそうだった。
反則狙撃が俺の傍に居ないことについては、警戒こそすれ、何も思わなかったことだろう。
名前に狙撃とつくし、叶丞がこれまでやってきた反則を思えば、俺の傍に居ても居なくても、舐めていると思うようなことはない。叶丞が戦闘に参加しているという時点で、何処にいようと、姿が見えようと見えなかろうと警戒してしかるべきなのだ。
だから、一年生達は、俺が魔法らしい魔法を使ったことに憤った。
叶丞に言わせれば、俺の本領は武器になく、魔法にあるらしいが、気の合う魔法使いすら、俺の本領が魔法だという人間はいない。それくらい、猟奇という人間は武器を振るって戦う。
結界を瞬時に張ること、崩すこと、最小限を求めていることを知ってはいても、攻撃魔法らしい攻撃魔法を俺はあまり使わない。
消費が激しいからだ。
使えないわけではない。
そして、俺の永遠の課題は魔法を最小限の力、最短時間で発動させることにある。
最小限の力、最短の時間に、最大の効果を求めるのは当然のことだ。
魔法機械都市ではある一定の距離で魔法を発動させ、それをある幅で繰り返し反射させることにより、威力をあまり下げず、反射させている場所に閉じ込める魔法をつかった。
ただ、この魔法は魔法自走という大きな塊を閉じ込めること、叶丞の操縦技術のおかげである一定の距離を保て、狙いをつけやすかったことで成功した。
動いている人間を閉じ込めるにはそれなり広範囲に発動させなければ難しい。
それが遠ければ遠いほど狙うことが難しい。
叶丞はよく遠くから狙撃なんぞやっているなと感心したくらいだ。
ただ、俺が正確な位置が把握できれば問題はない。
魔法には、物を転移させるという魔法がある。
人間だったり、無機物だったり、魔法だったり、なんでも転移させることができる。
この転移の位置を定めるという行為は、叶丞より得意であると自負できた。
なんでもそうなのだが、的にものを当てるということは、それが近ければ近いほど簡単であり、的が大きければ、当てるものが適度に大きければ、簡単である。
俺は、的に当てるために、魔法を大きくする力は使わない。使えないことはないのだが、大きく力を使うことは避けたいことだ。
そうすると、的に大きくなってもらうか、的の近くで当てなければ、それこそ、叶丞のように狙い撃たねばならない。
狙い撃つこともできないわけではない。しかし、叶丞や早撃ちのような精度は誇れない。それに、狙い撃つということは、的に当たるまでの間に、魔法の力を少しずつそぐ結果になる。
加速することにより威力を得るものや、自然の力を借りて力を大きくするようなものであれば威力自体は高まるだろうが、俺の使う魔法は大抵、発動場所から当てたい的が遠い場合、攻撃力を削いでしまう。
だから、俺は発動場所と的を近くした。
そう、それが転移魔法だ。
これは俺が考えたことではなく、もともと使われている技術だ。俺がしたことといえば、無駄をなくしたこと、術式を簡略化したこと、発動を早めたこと、転移の位置を定めたことである。
だから、位置を定めるために、気配をよむこと、人を見ること、予測することを俺は叶丞から学んだ。
叶丞ほどの精度はないから、それを補うために、魔法やその力を読む感覚も磨いた。
銃を撃つこととは違い、手に当てたければ、手のある位置に魔法を転移させればいいのだから、当たるまでの時間差はないし、自然の抵抗もない。そう、とまっている的や緩慢な動きをするものならば、位置を定めることは難しくない。あとはすべてスピードがものをいう。
もたもたしていては、位置を定めたところで避けることが簡単になってしまう。結界も張ってしまえるし、それこそ、一年生コンビのように、魔法を邪魔したり、無効化させることもできる。
魔法を正確にすばやく発動させるには慌てないこと、無駄を省くことが必要だ。
そうしてそれは、俺の永遠の課題にも繋がっていく。
「なん……!」
俺が魔術を使うと静寂が言葉を詰めた。
まだ無名の、叶丞と静寂と呼ぼうといった法術師は魔術師を邪魔すること、魔術を殺すことに長けている。法術の術言と呼ばれる言葉を巧みに操り、魔術の術式の肝心なところをその言葉で変えてしまうのだ。
たとえば俺が、術式で火を使えば木が燃え火事になるとした場合、静寂は術言で火を使い木が燃えれば火事になるけれど、火が起こらなければ木は燃えず火事にもならない。という具合に変えてくる。すると、魔法は真っ向から発動を否定されてしまい何も起こらない。だから、静寂なのだ。
あとから変えられてしまい、魔法を殺されてしまっては魔術師などただ立っているだけの人間だ。
これの対処法は至って簡単。
相手を冷静にさせないこと、術式を変えられる前に発動させてしまうことだ。
それが技術的に難しいことや、対処法が簡単にわかってしまうことから、その対処法にも対処されていることがこの静聴というコンビを有名にさせている。
だが、俺は魔法を速く展開させることを得意としている。その上、いやらしさや計算高さにおいて、優秀な実力があり優等生である一年生に負けるような、劣等生である二年生の有名人はいない。
特に、俺と叶丞のような、計算こそ勝利への近道であり、その計算を実行するために実力を身につけた人間に勝るには、まだ素直すぎる。
「運がわりぃな。俺とあいつの相手は、まだ早い」
静聴が俺達に勝つには、もう少し狡猾になるか、力で押すほどの実力を身につけなければならないだろう。 そうして俺は、ハッタリと魔法の展開の速さで一年生を推した。
俺の使った妙な、見掛け倒しの魔術に惑わされ、うまいこと魔法を使えない一年生のなんと可愛そうなことか。
最後の魔術など、まだ未完成の大層にみえるようにしたフェイクを急速にまとめて、いつもの魔術を使っただけだ。
うまくいき過ぎて思わず笑みもこぼれてしまった。
面があってよかった。
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