早々に勝ってきたつもりであったが、そうでもなかったらしい。
カーニバルが勝利して簡易控え室に戻る頃には、すっかり12組の一回戦はすべて終わっていた。
残った知り合いは、双焔、近々、ラクシャス、カプリースと予想通りだ。
「へぇ。次は双焔対近々か」
「これ、すごく見たいんだが」
「早く終わらせねぇと無理だな」
俺たちの二回戦の相手は、知り合いではないが、そこそこ有名なコンビだ。
「そうだな、早々に撃破するしかない」
「えらそうだなァ。でも、そうするしかねぇな。早々に撃破されたら、後がこえぇ」
猟奇は端末に表示されたトーナメント表を指で辿る。
「この端のカプリースとラクシャスはどっちが勝つと思う?」
「それも見たい」
「いっそがしいよなァ。俺もみてぇよ」
俺たちは決勝戦まで付き合いがそこそこある知り合いとは当たらないが、他は違った。
二回戦、双焔は近々と、ラクシャスはカプリースと当たっている。
「早々に撃破っつうことは、俺ら決勝戦出るってことになんだけど」
「そうなるな。だが、長引かせて負けたら、見れない上に、負けるだけだぞ」
「ヤダヤダ。それつっまんねぇ。じゃあ、ちょっとがんばれよ、相棒」
「がんばるのは俺なのか」
「おう。俺は力を温存したいからな。我らがスピードスターと渡り合う実力見せ付けてやれ」
俺も我が相棒の実力を遺憾なく見せ付けてもらいたいものだ。
だが、猟奇がこういうからには、てこでも動かない。協力などしない。嬉しくないことに解ってしまう。
「決勝戦はちゃんと働けよ」
「決勝戦は駄犬を可愛がるので忙しいかも知れねぇし?」
なんだかいかがわしいのは気のせいだと思いたい。
猟奇としては決勝戦で駄犬、今回特別ラクシャスとなっている神槍であるアヤトリと戦いたいようだ。
「カプリースが勝ち上がったらどうする」
「そのときは協奏ぶちのめす」
やはり協奏と相棒は何かあったとしか思えない。
今度くわしく聞いてみたいものだが、猟奇は話す気がなければ話をそらし続けるため、いつも俺が折れてしまう。話したいことは勝手に俺の聞きたいことを汲み取って話してくれるので、恐らく、今は話したくないのだろう。
「ま、何せよ勝ち上がらないとな」
「そうだな。ガンバレ、相棒」
「やっぱり俺ががんばるのか……」
毎度の事ながら、不公平を感じないでない。
これでいてやるときはやるから、文句が言いにくい。だが、俺も猟奇との付き合いは短くない。言いにくくても文句だけはきっちり言ってしまう。
「わざと撃ち抜いてやろうか」
「やれるもんならな?」
仮面越しに笑っているのがよく解る。まったく憎らしいことだ。
「なら最初からお前は参加しないでおくか?」
「そんなことできたか?」
「できる。こちらの端末から状況把握して、後方支援に努めるっていう戦法で参加という形になるが、参加していないも同じ扱いだな」
俺の投げやり気味な提案に、相方が声を出して笑った。
「それもいいなァ。有りだ」
俺は端末を操作して、ホルスターを確認するように腰の辺りを触る。
いつも通り、ライカとフレドがそこにはあった。
「最初から気配を消して、後ろからドンパチする」
最近仲のいい先輩が得意図する戦法だ。
腰に下げたポーチの一つから二本サイレンサーを取り出す。
それを一本ずつ設置しつつ、控え室で一瞬にして気配を消す。
「こんなに近くにいるっつうのに、いねぇみてぇ」
相方は面を頭へと持ち上げた。
どうやら、猟奇は俺の提案どおり、此処で戦闘を観戦する気のようだ。
「……あいつら、一応、有名人なんだが」
「魔術師のほうは俺も授業が被ってる上に、よく噛みついて、よく吼えるから知ってっけど?」
夏休みしかり、体育祭しかり、よく吼える仔犬ちゃんだなと猟奇姿でちょっと前に言っていた。
俺もそれは思ったが、あえて言葉にはしなかった。
その仔犬ちゃんは、文化祭一日目に俺に言伝をしてくれていた。
「尊敬してるっていってたぞ、仔犬」
「ワンちゃんキャンキャン吼えんのかまって欲しいだけだもんなァ。困った構ってチャンだナァ」
体育祭から仔犬ちゃんの株は鰻上りだ。仔犬ちゃんまたは困ったチャンと呼んで、猟奇はいつも通り可愛がっているらしい。
「ペットの大型犬も構ってやれよ」
「俺はどちらも、平等に扱ってやってるぞ。両方とも、可愛がってる」
俺には仔犬ちゃんを構うことで、更に大型犬をいじめているようにしかみえない。
「で、戦ってはやらないと」
「可愛がってるからなァ」
仔犬としては戦いたいところであろう。
あの仔犬は少し、魔術師にしては熱いところがある。
「まぁ、とにかく行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ひらひらと手を振った相方の姿を目にいれたあと、再び俺はフィールドへと転送された。