「おかえり」
「ただいま」
俺が控え室に戻ると、猟奇が端末に三つの映像をだしていた。
一つは俺がいたフィールドで、こちらは既に誰もいない。
あと二つは、俺もみたいといった兄弟対決と因縁の槍対決だ。
「楽勝だったなァ」
「あれは静聴より甘い。たぶん、クイズで勝ち上がって、一回戦は運だろ」
「ひどい言い様」
俺は誤魔化すように首を少しだけ傾げたあと、画面に視線を向けた。
「それで、どうなんだ?」
「あっさり話題転換か。ひっでぇ。……双焔と近々の対決は、焔術師がいつも通り大型魔法の陣を描いてる。最初に中型魔法で現場を火の海にしてるから、それも手伝って、ちょっと暗殺者が遠回りしてる印象だな。双剣は舞師にスピード勝負ってとこだ」
近々は両者ともに魔法知識を持っているが、両者ともに魔法を使えるといわれるほど魔法が使えるわけではない。特に暗殺者は体質の関係で、何かを生み出すという魔法を使うことができない。
魔法への対処は、どうしてもスピード勝負か暗殺者の魔法の無効化に頼ることになる。
だが、暗殺者はあまりその無効化を表に出したがらない。そうすると、双剣を離脱させた後、焔術師を離脱させるという方法では遅すぎるし、舞師を焔術師に向かわせると、舞師が負けてしまう可能性が出てきてしまう。
双剣も焔術師に魔法を使わせたいし、できれば一人でも減らしておくため、勝てる可能性が高いほうに剣を向ける。
自然と、焔術師には暗殺者がスピード勝負を仕掛け、双剣が舞師にスピード勝負を仕掛けにいくという形になるのだ。
「これは、焔術師、速いな」
「そうだな、この前戦ったときと比べたら、格段速くなったな」
俺とのことがなくなったことは、焔術師の荷物を少しでも軽くしてくれただろうか。こうして画面を見ていると、少しだけ、あれは正しい判断だったと思わせてくれる。
あの時とは、違う姿がそこにはあるように思えたのだ。
「でも、我らがスピードスターには勝てねぇな。けど、まだ終わってねぇ」
俺はかなりすばやく今回の戦闘を終わらせてきた。
それでも暗殺者のスピードには適わない自信がある。
「ということは、近々が手こずってるってことか」
「そうなる。でだ。槍対決だが」
「ん」
「協奏にやる気がねぇ」
思わず、もう一つの映像を二度見する。
確かに猟奇の言うとおり、協奏にはやる気がなかった。
「せめて、槍走の対決を見守っているといってやれ」
わざとらしく肩を下げた相方は、回避と防御を繰り返しふらふらと逃げ回るに徹している協奏を指差した。
「見守っている姿勢がこれなら、遊んでるってことだろ」
他人のことが言えるのか、お前はといってやりたいが、俺は口を噤む。
代わりに、槍対決について聞いた。
「神槍と槍走は?」
「前、駄犬が勝ったのと同じだな。たかが複数の槍程度で折れるほどアレの槍は弱くねぇ」
珍しいことに猟奇がワンコを褒めた。それこそ、明日は槍が降るかもしれない。
猟奇は、槍走をたかがと評したが、槍走は槍使いたちの頂点に立っただけの実力がある。複数の槍を使いこなし、適当だと思われる場面で使うというだけでも難しいのに、それがこなれているという程度ではなく、翻弄される人間だって多いのだ。
それでも、猟奇がそう言ってしまえるのは、それだけアヤトリが強いということなのだ。
「学園側のわけのわかんねぇ縛りさえなけりゃ、アレはこんなとこにいる奴じゃねぇよ」
「確かにそうかもしれないな。柄にもなく後悔か?」
珍しく褒めただけではなく、まるで現状に思うところがあるようにいうものだから、俺は猟奇を笑ってやる。
猟奇も俺と同じ笑みを浮かべた。
「後悔とかそんなもんは後でするもんだろ。いくらでもしてやるし、いくらでも嘆いてやる。でも、そんなものは最後の最後だ」
「おまえらしいな」
「だろ」
二人して、一度声を出して笑うと、再び画面を見る。
「で。こっちは駄犬が勝つとして、あっちは、暗殺者か」 「あの体質は魔法使い殺しだ」
画面の中ではちょうど、暗殺者が焔術師に近づいたところだった。
焔術師が暗殺者が近寄ってもなお、小さな魔術を使いつつ抵抗している。
「小器用になってないか?」
「そうだなァ。まだまだな部分は多いが、動きもよくなってるつうか」
もしかして何か吹っ切ったのだろうか。
前と違いすぎる動きにそんなことが頭に浮かんだ。思わず魔法使いの精神状態と魔法との関連性について思考をつなげた。
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