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離脱させるときは、短剣を刺した嫌な感触が、あまりない。
ただ、短剣の重みだけが加わる。
抜かなくても対象は消えていくのだから、待っていればそれでいい。先ほどもそうだった。
そうやって弟が消える寸前、俺を見て挑戦的に笑った。
やってやるよと、その表情が語る。
何をやってやるのか聞かなくても理解した。弟は戦うことを決めたのだ。
少し、うらやましく思う。
戦うことを諦めてしまった身としては、刺さるものでもある。そう思えば弟はいつもぶつかっていくことを選ぶ。
避けることもできるはずなのに、結局いつも正面からぶつかる。不器用だ。とても不器用だが、けして悪くない。
別に、諦めたわけではない。そう、いいわけのように思うこともある。
何度も何度も諦めようと思うけれど、諦めたつもりでずるずるとひきずってしまっている。だから、諦めたわけではない。
それは、未練だ。
魔法のことも、キョーのことも、格好悪くないふりをしているが、ただ、未練だけで動いている気もする。
諦めたくない。諦められない。でも、それはいつまでそうするつもりなのだろう。
友人は、答えを出した。
俺も、そろそろ答えを出さなければならないのかもしれない。
諦めることも、諦めないことも可能性だ。
できるかもしれない、できないかもしれない。わからない。
できると思っているから、諦められない。
ならば、キョーのように一度はっきり振られてしまえばいい。
魔法は、恐らく、此処まで引きずってしまったのだから、生涯引きずっていく。
それだけは覚悟している。
けれど、人への想いは拗らせ過ぎても、引きずりすぎても、良くないように思える。
あまり縁のないものだったからかもしれない。
だが、それでも諦められるものなのだろうか。キョーは急には変わらないといった。けれど整理はついたとも言っていた。
区切りにはなるだろう。
そこで諦めきれないというのなら、キョーをもう一度追いかければいい。諦められるのなら、俺の気持ちはその程度だったと思えばいい。
解っている。できるはずである。
それでも黙って、慣れただなんていっていられるのは、きっと、慣れではない。恐れだ。
もし、キョーに否定されたら、立ち直ることができない気がしている。
キョーは、知っているといった。
それは、たぶん否定したりしない言葉だ。
あの男は、俺の気持ちを否定したり、俺自身を否定したりすることはない。
ふるにしても、知っていてくれているはずだ。
俺の気持ちを、俺自身を、あの男は、知っている。
俺も知っているはずだ。
だからこそ、俺は、特別にしてしまったのだから。
「まったく難儀だな」
俺は自分自身にため息をついて、火の海の中走り出す。
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