二人して勝てばいいという結論に至ったわけだが、そう簡単に勝たせてくれないのが、ラクシャスと近々の二組だ。
いつも俺と戦ってばかりの印象がある暗殺者をはじめ、槍も糸もお得意のものであるアヤトリこと神槍、召喚士として名を馳せる鬼道、舞うように剣を振るう舞師。四人ともこの学園の有名人であるということを間違いなく感じさせてくれる。
俺と猟奇はスタート地点から、試合開始の合図とともに走り出す。
決勝戦に参加している六人のうち、一番速いお兄さんから逃げるため、そのお兄さんを乱戦に巻き込むため、俺は猟奇とともに神槍に向かって走る。
神槍は予想通り、俺たちの陣地とされる場所と近々の陣地とされる場所、二つから自らの陣地寄りの交点に居た。
それを目視するくらいに、一本のナイフが投げられる。
「相変わらず好かれてんなァ!」
楽しそうにそんなことを言いながら、そのナイフを弾いた猟奇に、俺は思わずうんざりした顔をした。
「できることなら普通に好かれたいものだ」
振り向くことなく、威嚇程度に後ろに向けて二回ほど発砲。
相変わらず暗殺者の気配が読めない。
「ま、暗殺者はお前にしか興味ねぇからァ」
神槍に近づくと、猟奇が神槍に向かって跳躍した。
いつもの鉄の棒が、跳躍中にマジックサイスへと変わる。猟奇はそれを後ろにひいたあと横に薙ぐ。
「ッ、猟奇……ッ!」
猟奇の一撃目を回避した神槍に、猟奇が追撃。
続けざまにやってくる攻撃に、神槍は槍を盾にして防御した。
「遊ぼうぜェ、ワンワン」
相方がどう考えても厄介で性質の悪い悪役にしか見えない。
俺は相方が神槍に絡んでいる間にも後ろから追ってきた暗殺者の牽制に忙しかった。
隠れることができないことは俺にとって不幸な出来事ではあったが、幸運でもあった。
暗殺者は気配が読めないうえに、速い。
学年一どころか、学園で一番速い。
その速さで更に気配を消して誰に気が付かれることもなく、何が起こったか気付く暇も与えず撃破する。隠れる場所まであったら、暗殺者の独壇場になってしまう可能性まである。
けれど、攻撃力という点から見ると舞師や双剣といった連中や、猟奇のほうが高い。その上、暗殺者はリーチが短く、飛び道具を持っているといっても、俺の持つ銃ほどのスピードはない。
隠れる場所がないということは、気配を隠し、スピード勝負、一撃必殺を仕掛けてくる暗殺者にとっても不利な状況だ。隠れる場所がないため、その姿を確認されてしまう。
確認されたからといって、簡単に暗殺者の攻撃が避けられるかといったら、そうではないし、こちらの攻撃が通るかといえばそうでもない。しかし、勝負を長引かせることは可能であるし、勝率も上げることができる。
その姿をとらえ、必殺の一撃を避けること、防ぐこと。
それができれば、暗殺者は手数を増やして敵を追い込むしかない。それでも、一撃必殺よりは時間と手間がかかっているというだけで、撃破されないというわけではないし、撃破するための時間が格段と増えるというわけでもない。
こうして近寄らせてしまったら暗殺者攻略は難しいことのように思える。
俺は銃弾を撃ち尽くすと魔法石二つを投げる。
石を投げておきながら、俺は自分自身の力を使って結界を張る。
「展開」
後退することによって結界に捉えられることなく、暗殺者は俺にナイフを投げてきた。
俺はもう一度繰り返す。
「展開」
俺の目的は暗殺者を捕らえることではない。
もう一つ展開された結界に、暗殺者は最初に張られた結界を回り込もうとして邪魔をされたことに、舌打ちしたようだった。
その間にも弾を入れて、再び暗殺者に銃口を向ける。
左に持った銃をホルスターに納めると銃を一つ召喚する。
「またそれか」
暗殺者が何か呟く。
俺の左手に現れたナリアに嫌な顔をしている。
「速さをあげたところでお前には勝てない」
魔法でもない限り、速さなどというものはすぐあがるものではない。
それこそ、猟奇のように無駄を省くしかない。
普段から中距離からの攻撃に使っているライカとフレドは、牽制には有効であるが、弾をはじいてしまう人間に一撃を与えるには、色々な工夫を必要とする。
ギリギリ遠距離といっていい距離から攻撃できるナリアは距離を詰めただけ、その威力が変わる。
その代わり、ライカやフレドほどの連射はできないし、反動も大きい。
ナリアを使うだけで、暗殺者の牽制は難しくなるのだ。
ただし、ナリアの弾をはじくことはできない。
俺は右手に持ったライカを撃つと、ワンコを苛めて楽しむ猟奇の傍へと走る。
「仕掛ける?」
もともと暗殺者を猟奇と神槍の戦いに巻き込むために走ってきたのだ。こうして対峙したときも、猟奇とそんなに離れていなかった俺は、猟奇とすぐにすれ違う。
すれ違いざまに囁かれた言葉に小さく頷くと、猟奇が俺に向かって投げられたナイフを再びはじき、地面にサイスを突き立てた。
突きたてたサイスから幾本か光の筋が射出され、神槍はそのまま槍を振るい衝撃波をだし、魔法を相殺した。
サイスの光が襲ったのは神槍だけではない。暗殺者はサイスの光を無効化できるが、学園でそれを大々的にすることを厭っているため、それを避けた。
next/ hl2-top