「あの衝撃波はずっりぃなァ」
猟奇はサイスの刃を再び出現させると、サイスを構える。
「まったくだ」
俺はその場で反転すると、神槍の腹に向けてナリアを発砲。
猟奇と戦うことには乗り気になれないが、俺と戦うことになんら問題はない。神槍が槍を回転させると糸が数本こちらに向かって飛んできた。
俺の動きを阻害する、もしくは俺を捉えるために投げられた糸を、俺は避けることもなく右腕に引っ掛けた。
神槍がナリアの弾を避けたことによって引っ張り合いをするのに遅れたのをいいことに、容赦なく糸を引っ張る。
普段から糸を扱い近接戦に慣れ親しんでいる槍使いと比べれば俺など非力なものだ。神槍の体勢が少し崩れるくらいしか引っ張ることができない。
神槍をこちらに引き寄せるほどの力はないのだ。
そんなことは承知の上である。当然、俺が糸を引っ張ったのは神槍をこちらに引き寄せたいからではない。
神槍の体勢が崩れたところにもう一度銃を撃つ。
神槍がわざと糸を切り、俺とのつながりを切ると、その弾を槍ではじく。
俺の背後では、俺と相手を交換した形になっている猟奇が暗殺者相手に立ち回っている。
俺は距離をとった風を装って、猟奇の状態を神槍に見せつけた。
猟奇は魔法使いとは思えぬ動きをするが、暗殺者に接近戦で勝てはしない。
猟奇は暗殺者におされていた。
神槍はただ、舌打ちをした。
俺はそのままその場から少し離れるように動くだけでよかった。
神槍は俺の策にのってくれるようだ。舌打ちしながらも、暗殺者に攻撃を仕掛けに向かう。
俺はライカをホルスターに戻し腕に絡まったままの糸を切ると、それに素早く魔法石を取り付けた。
俺は少し離れた場所から暗殺者と主従の戦いを眺めつつ、数本の糸を一本に繋げた。
さすがは暗殺者。主従の息の合った攻撃も防戦一方ではないようだ。
「二対一でもあれだけ動けるか」
俺はナリアを構える。
動き回る暗殺者が来るだろう場所に狙いを定めると、暗殺者の動きに集中した。
暗殺者は猟奇のサイスの刃を避けると、ナイフを一つ投げ神槍が投げた糸を自らに絡まないようにし、神槍が同時に槍で繰り出してきた突きも短刀で軌道をそらした。
神槍、猟奇ともに、暗殺者よりも間合いが長い。暗殺者は攻撃を避けるにしても最小の動きで避けようとする。
そうすることで、神槍、猟奇のどちらかと距離を詰め、一撃加えて離脱させようとしているのだ。
最小の動きで避けるということは、暗殺者が大きく動くことはないということである。
「三対一じゃ、どうだろうな」
猟奇のサイスの刃を受けているところで、暗殺者は少し離れた俺に気を向けた。
目が合ったので、笑ってやる。
引き金もついでに引いてやると、暗殺者は眉間に皺を寄せ、その場から大きく横へと跳躍した。
魔法で反動を殺しているとはいえ、大きくぶれた左手を無視して右手で石を投げる。
その石も暗殺者は距離をとることで簡単に避けてくれた。
俺は手に持った糸とナリアを手放すと、ライカとフレドを再び手に持ち、少しだけ距離を詰め、暗殺者を狙い撃つ。
いつも通りはじかれる銃弾を気にせず、いつもとは違い暗殺者との距離をまっすぐ詰める。
俺が仕上げにかかったことに気がついた猟奇が大きくサイスをふるって神槍をその場から退けさせ、俺とは逆に暗殺者から離れた。
俺がいつもとは違うこと、そして、猟奇の反応から、何か仕掛けてくるだろうことはわかっているが、どう動くべきか、暗殺者は悩んでいるようだ。少しの間、視線が揺れた。
しかし、ここで離れていった二人を追いかけても、俺に隙を与えることになる上に、防いでいるとはいえ、俺の攻撃が甘いというわけでもない。
暗殺者は俺に攻撃をしかけるか、銃弾がなくなる瞬間を狙うのが吉だ。
俺は弾を撃ち尽くしたライカの引き金をわざとひいた。
もちろん、その無駄ともいえる動作を逃す暗殺者ではない。
一気に俺との距離を詰める。
俺は暗殺者の手に持った短剣が顔に迫ってきたのをかろうじて避けると、地面をしっかり踏みしめ、足首を捻る。
俺が離した糸が地面に縫い止められ、つま先でわずかに引っ張られた。
「展開!」
暗殺者がしまったという顔をした。
俺の投げた石が糸に引っ張られて持ち上がり、宙に浮き、暗殺者の後方に銃を召喚した。
「残念引っかけだ」
三年生に盛大に石を使ってから、魔法石は補充されていない。いまや、俺の手元にはいざというときの石と、銃を召喚するための石しか残っていない。
だから、俺はいつも通りに何かあるように振舞った。
暗殺者は俺を知っている。知っているからこそ、俺が罠を仕掛けていると警戒していた。その警戒から、引っかかると思っていたのだ。
暗殺者が俺を知っているからこそ、引っかかる罠を、その一瞬を俺は作りたかった。
俺の声に反応して、一瞬対応に遅れてしまった暗殺者の額に銃口を向けフレドの引き金をひく。
それでもやはり、接近戦は暗殺者の領域だった。
離脱するまでの一瞬、暗殺者が放った一撃に、俺の視界が一瞬にして真っ白になった。
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