控え室に転送されると、悪態をつくまえに、試合の様子を見ようと端末を操作した。
猟奇は神槍と戦っているが、ようやく神槍をその気にさせたらしい。神槍におされている様子が見られた。
俺たちの近くにいなかった二人、舞師と鬼道は二人で戦っていたらしく、俺が見たときには、舞師が一人で立っていた。
あの二人の戦闘を見てみたかったのだが、やはり暗殺者との戦闘では、早々に負けない限りリアルタイムでは見れない。
「くっそ、やっぱまだアレには勝てねぇかァ」
結局、神槍に負けて転送されてきた猟奇の声に、俺は端末から目を離す。
「舞師と神槍の戦いになりそうだが」
「神槍が勝つだろ。そうじゃねぇと、なァ?」
ご主人様がこんなところで、そんなことを言っているとはつゆ知らず、神槍は舞師と対峙していた。
「で、俺たちは結局、どういう位置づけになるわけだァ?」
「神槍が勝つとしたらラクシャスが優勝で、あとは舞師が一勝、俺と暗殺者が一引き分けだから、三位じゃないか」
猟奇が画面を覗き込み、小さくため息をついた。
「勝たなかったなァ」
「そうだな、うまくはいったんだがな」
画面の中では舞師が神槍に苦戦している。
神槍は主人と一緒に戦いたいようだが、一人で戦ったほうが強い。味方のことを考えながら戦うより、一人で立ち回ったほうがうまく攻撃できているように思う。
「暗殺者相手に接近戦は無理があったなァ」
「神槍その気にさせて勝算があったとは思わないが」
俺は猟奇と顔を見合わせ、二人で一つ息をついたあと苦笑した。
「ま、次だ次。ワンワンにはご褒美をやるとして、お前はもう少し接近戦磨くのかァ?」
「接近戦に持ち込まない、もしくは今回以上に気をとられてもらえるように精進する」
「オオーコワイネー」
猟奇は決勝戦の結末を見ることなく、端末の電源を切った。
「猟奇は、サイスの腕前でもあげるのか」
「いやァ?魔術式……魔法でもいい。もうすこし混合して惑わせてやる」
俺は再び猟奇と顔を見合わせた。
「勝てばいいんだよ、勝てば」
「負けたけどな」
そして二人して笑った。
口ではそういうものの、猟奇はサイスの扱いを変えるだろうし、俺は接近戦を想定した戦闘訓練を増やすだろう。
「大体どうして二人して得意分野で勝負しなかったんだろうな」
俺の得意分野はあくまで狙撃であり、狙撃の中でも遠距離からのものを得意とする。
猟奇の得意分野はサイスでの接近戦と思われがちだが、中距離からの多様で細かい魔法攻撃だ。二年の始めまでは俺の協力もあって、それを隠してきた。
「ある意味、得意分野だったけどなァ?これはこれで可能性としては、面白い結果だったとは思うぞ」
「騙せるって?」
俺は猟奇と話を続けるために控え室の椅子に座った。ついでにライカとフレドの確認をする。二丁ともいつも通り、何か壊れたところもないようだ。
「総じてお前の戦闘は騙しあいじゃねぇの」
「またそうやって、俺をこずるいみたいに……」
「おまえのはこずるいじゃねぇな、反則狙撃」
部屋に帰ったらきちんと整備してやろうと思いながら、魔法石の残りの確認もする。
補充をしなければと思いつつ、できていない。本当に頼りない数になってきた。
「俺とお前は、近接戦闘がやっぱりあんまり得意じゃねぇってことな。結局、二人して小手先で誤魔化してきてる」
「突き詰めるか、それとも、小手先ではない技を獲得するか、だな」
「そうだなァ。あとは、それこそ、負けなければいいか」
勝とうという気はあまりない。
けれど、負けるのもあまり好まない。
負けないとは、俺と猟奇らしい考え方だ。
「了解。では、欲張って両方いこうか」
「オーケー。両方だな」
そう、とても俺と猟奇らしい。
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