さきへむかうこうてん


優勝しか決定しなかったコンビ戦闘に負けてしまったことに気分を悪くしたわけでもないが、その日は部屋に帰るとすぐさま寝て、文化祭最終日を迎えた。
文化祭最終日はお片づけと後夜祭であり、本祭は昨日で終了していた。
銃選択のイベントは大盛況で、俺が担当したゲームは誰一人クリアする事ができないまま、幕を閉じた。
「本当、腹立たしい限りだな」
コンビ戦闘で相打ちになったことも俺が担当したゲームをクリアできなかったことも不満に思っている一織が、屋台のテントを畳みながら、俺に聞こえるように呟いた。俺は、あえて聞こえなかったふりをして、テントに使われていた鉄パイプを束ねる。
「いやぁ、それにしても、なんで俺は生徒会の手伝いにかり出されとるんやろかぁ」
わざとらしいまでの話題転換だったが、一織はそれにのってくれた。
「ルール違反のペナルティだ。人手が足りねぇから、ちょうどよかった」
「寮長が決めるんはやめてくれるんかい」
「さぁな。この働き次第だ」
サボったら覚悟しろよということらしい。
俺は束ねたパイプを担いで、転送用の魔術式が描かれている場所まで持っていく。
「祭り中はずっと変装やと思うとったんやけど」
「片付けだの後夜祭だのは、戦闘だの個人を特定するクラスの出し物だのはねぇから、変装する意味がねぇからって話だが」
転送用の魔術式の上にパイプを置き、一織がタイミングをはかって投げてきたテントの幕をキャッチすると、パイプのうえにそれを置く。
「なるほどねぇ。でも、片付け手伝わされるんやったら、変装のがよかったわぁ」
「あ?」
「副会長様と一緒に仲良く片付けとか」
普段から仲良くしておいてなんだが、こういったイベントごとでも仲良く一緒に片づけなどをしていたら、目立って仕方がない。特に、生徒会の仕事であるとされる部分の手伝いをしていたら、仲がいいこともあってあまりいい目で見られない。仲がいいことを利用して、生徒会に取り入ろうとしているという考え方もあるからだ。仲がいいから手伝っていると考えられないほど、生徒会は仕事をきっちりと分けていことも原因だ。
「いいんじゃねぇの?もっと仲良くても俺は文句いわねぇけど」
「ひぃは言わんでもなぁ……その他大勢は言うやろ」
一織はもう一つテントを畳みながら、こちらに見向きもしないで言った。
「言わせておけ。やっかんで絡みにいったところで、奴らより姑息な野郎にかなわねぇし、親衛隊連中がなしつけてあんだろうが」
「親衛隊には感謝感謝なんやけど、なぁ、その姑息な野郎に思い当たりがまったくないんやけども」
再びテントの幕を投げられた。
転送の陣に入れて貰うためというより、俺に対する抗議だ。
「俺には心当たりが一つある。というより、一つしかねぇなぁ」
何がいいたいか、誰のことであるかはわかるが、わかりたくない。
俺はパイプの束が投げられる前に、一織がいる場所まで戻った。
「ややわぁ。なんやろなぁそれ」
「よく言う」
ついには鼻で笑われてしまった。
「まぁ、真面目な話。最近有名人と仲良くしすぎやな。やっかみの方は副会長親衛隊ががんばってくれとるんやけど、どうもなぁ」
「やっかみ程度どうにかなるだろうが」
一織が束ねてくれていたパイプを、また担いで、魔術式まで持っていきながら、首を振る。
「やっかみだけやったらな。おひぃさんが前、脅しつけたことあったやろ。あん時、どれくらいがおひぃさんの変装後の姿を見抜いたか、また、そのおひぃさんとも、変装後とも縁がある俺とその変装後を結びつけたか」
俺が担いで持っていったパイプは最後のパイプだ。
一織は魔術式を消さないためにも、式に近づかず、俺がパイプを魔術式に乗せるのを見守っていた。
「なるほど。闇討ちの心配か。俺は今のところ、むしろ俺が闇討ちしに来るんじゃないだろうかと恐れられている」
「ああ、わりとバレとるちゅうことやな」
「お願いです止めてくださいと自己申告をたまにされる」
「怖いもんなぁ。俺も毎回怖い思いさせてもろてます」
一織にまた鼻で笑われた。
いや、本当に怖い思いはしている。
「俺を変装後とイコールで結べる奴は多いんだ、おまえの変装後も予測できるやつは少なくねぇだろ」
「今んとこ、闇討ちとかそれらしい申告はないんやけどね」
「怖いからじゃねぇの」
仕返しとばかりにそういって、一織は携帯端末でどこかに連絡をとった。そのあとすぐ、転送用の魔術式が光って、どこかにテントが転送された。
「こんなにええ人やのになぁ……」
一織が再度鼻で笑った。三回目である。さすがに、心にもないことをいってしまったと俺も少し反省した。
「これからって、気もせんではないけど。まぁ、用心しとくに越したことはないちゅうか」
「そうだな。こずるい罠でも張って、撃退しておけ」
「やーやわぁー……こずるいとかなんのことか、さぁあっぱりわからへんわぁ」
「言ってろ」
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