一織と仲良くテントを片付けた後は、学園の色々なフィールドに行ってゴミ拾い。
午後から片付けをしていたのだが、それでも、休みなく動くと疲れる。そろそろ座りたいなと思った頃には陽が傾いて、大方片付けが終わっていた。
「よ。お疲れ」
「……良平くん」
「おう」
「なんや、心なしかめっちゃ元気な気ぃするけど」
「今朝まで駄犬をいじり倒し、今まで寝ていたが何か?」
藪から蛇が出た。
聞かなければ良かったと思いながら、俺は食堂の片隅の席でぐったりと机に上半身を預けた。
「で、ご満悦な良平くんは、なんでわざわざ食堂まで来たん?」
「そうだなー後夜祭だけはしっかり出てやろうかなと思って」
「おいしいとこどりや!なんや、ずーるーいー」
良平が俺の隣に座り、肩を軽くたたく。
「俺がずるくねーことなんてあったか?」
俺は思わず机から身体を起こした。
良平を見た後、数回頷く。
「なかった……」
いかにもやってやりましたという顔をする良平が憎らしい。
俺もこれくらいふてぶてしくなってやりたいものだ。
「まぁ、ええわ。良平が参加しよかってことは、あれかいな。後夜祭なんかあるん?」
「普通の学祭みたいに、なんか盛り上がる……らしいという話を聞いて」
「なんか燃やすん?」
良平も詳しいことは知らないらしい。首を軽く捻られた。
「生徒会ちょい、張り切りすぎちゃうか」
「これを毎年したいのか。つらくねーか?せめて、これの半分くらいの日数だろ」
「やなぁ」
持ってきておいた飲み物を手に取ろうとして、ふと気がつく。
「良平、もしかせんでも、飲んだ?」
「ばれた?」
「いや、空っぽやん?」
持ち上げた際、軽すぎるグラスに嫌な予感はしたのだが、良平が飲んだとしても、さすがに全部飲んでいないと思っていたのだ。
俺が思うより、良平は遠慮がなかった。
「叶丞が全部飲んだんだろ」
「いや、飲んどらんからね」
「無意識に」
「いや、ないからね」
良平は先程と同じ仕草を繰り返す。
白々しいにもほどがある態度だ。
「ばれた?言うたやろ」
しきりに首を捻り、まるで何もなかったかのような態度を、良平は貫く。
「気のせいだろう」
「いや、いやいやいや。良平、騙されへんで。とりあえず、俺のためにそこのグラスに水汲んできてくれてもええと思うわ」
少しの間、良平の脳内で引き算が行われたのだろう。
了承するまでに時間がかかった。
「水くらいなら」
良平が飲んだのは、麦酒であったため、俺は損をしたようなものだ。
良平が水を汲みに行っている間、俺は静かに目立たないように、じっと座っていたのだが、食堂はいつも通り、ある人物がやってきて騒がしくなった。
いつもなら、舌打ちをして嫌そうな顔をして無視をしてくれるのに、騒がしくなる原因が、隅のほうに座っているはずの俺を見つけて、騒がしさを引き連れてやってきたのは珍しい。
「てめぇに言いたいことがある」
今日は起きてすぐに、原因の兄に片付けを依頼され、ずっと手伝っていた。
夕方になって、こうして原因である弟に会うとは
、なんとなく豪華な日だなと思う。
現実逃避をしていたといってもいい。
本当に、騒がしさの原因であり、俺を昼間にこき使ってくれた人を兄に持つ、生徒会長が俺に近寄ってくるということは珍しいことなのだ。
「俺はお前も、兄貴も、越えてやる」
「いや、お兄さんはどうか知らんけど、俺は越えとるやろ、普通に」
「あ?」
「いや、越え」
「あ?」
会長はあくまで俺の意見を聞かない。
いつも通りである。
そして、いつも通り俺を睨みつけ、一言だけで威圧してくるのだ。
「いえ、なんでもありません」
「よし。じゃあな」
「え、そんだけ?」
「あ?」
「すません、なんもありません」
俺はいつも通りすみませんと、頷くしかない。
どうあっても、会長には弱いなと再認識した。
そうなると会長が去っていくまで俺に近寄らなかった良平に向けて、思い切り感じ悪く舌打ちするしかやることがない。
水が入った瓶は、俺が座った席の近くにあったはずで、水を汲みに行った良平も、会長が近寄ってくるくらいには水を汲み終わって、元の位置に座ることができたはずなのだ。
「叶丞クンもってもてー」
それでも良平はふてぶてしく、そんなことを言いながら、俺の隣に座った。
「うわぁ、良平クン、ヤナ感じ」
「どっちが」
そんなことを言い、水を飲む良平に俺はひとつ言いたいことがあった。
「俺の分は?」
「あ」