俺は副会長が何か言う前に、反則狙撃の前にあるマスを一つ壊す。空白のマスで、安全地帯といってもいいマスだった。
そのあとの三マスはすべて何かの指示が書いてある。三マスすすむ、ニマス戻る、一回休むだ。一マスくらいなら反則狙撃とて飛び越えられるだろうが、ニマスは無理だとふんだ。その上、副会長は三以上がだせないだろうという妙な確信もあった。世の中にはそういった人もいる。何故かそういった運がないのだ。
空白のマスにナイフが刺さった瞬間、副会長の顔が崩れた。まるで会長のような険しい顔だ。やっぱり兄弟だな、よく似ていると思っている間に、反則狙撃はなくなった場所を飛び越え、三マス進もうとしていた。
なくなった一マスは飛び越え、三マス進むに着地するとニマス戻るに足を踏み出す。このまま進めば反則狙撃は一回休むことになるのだが、副会長のコマンド入力は素晴らしかった。
反則狙撃は三マス進むに一発撃ち込み、一回休むのマスに二発銃弾を撃ち込む。
「三マス進む!」
副会長がそういうと、壊れてしまった一回休むのマスが三マス進むに変わった。
「副会長ならやってくれはると思いました」
反則狙撃の三マス目は三マス進むに変わったが、その三マス先は怒涛の指示祭りとなっている。俺がいうのもなんだが、それを踊るように撃ち、避け、飛び越え、先に進み続けるなど、反則狙撃のスペックでは無理だ。無様に転がり、ギリギリで避け、もたもたすることもありながらなら先読みをし、計算してなんとか連続しているように見せることもできる。しかし、それは中身があってこそのものだ。副会長ができないというわけではない。だが、副会長は見た感じからして俺よりもハイスペックだ。そんな人間は大抵、そのスペックを頼ったり利用したりして立ち回っている。俺とて自分のできることを利用していた。しかし俺には副会長ほどのスペックはない。つまり副会長のスペックの高さに反則狙撃がついていかないはずである。
案の定、副会長はしばらく奮闘していたのだが、反則狙撃は途中で足をもつれさせ、あえなく一回休みのマスに止まった。
何故か見物客からの俺へに視線が刺さるしひそひそと話されているのだが、俺は気にせず、副会長に睨まれたりする前にサイコロをふった。
サイコロは六を真上にしてとまる。
暗殺者がゴールまでたどり着くには、あと十二マスだ。六マス動けばもうすぐゴールである。俺はなんの工夫もせず、コンソールに指を置いたまま、その姿を見つめた。
「そのまま、進ませると思うか……?」
反則狙撃は一回休みであるが、それはサイコロをふれないというだけだ。銃をうつことは可能である。
だが、そんなことは俺とて気がついていた。
副会長が反則狙撃を操作し、六マス目のコマに、なにかを仕掛けようとしていた。
俺はコマンドを打ち込み、ナイフを投げる。あまりナイフを装備していなかった暗殺者は、これで投げナイフは手元からなくなった。
そのナイフは反則狙撃が二度目に撃った場所を上書きするように刺さる。
「トラップ! 三マス進む!」
「一回休む!」
俺が自由に仕掛けられるトラップの発動が先か、反則狙撃のしかける罠が先か。俺と副会長の声は同時に響く。
俺のトラップは副会長のトラップよりも先に働いた。それにより、暗殺者は三マス先のニマス進むに歩をすすめる。そして最終的にゴールひとつ手前のスタートに戻るにとまろうとしていた。
見物客の一部は、三マスとか焦ったなバカめと笑ったが、副会長はそうではない。どうにかしようとコンソールに指を走らせる。
副会長はこの短い時間で俺が一筋縄ではいかない人間だと判断したらしい。まったくもってその通りだ。副会長の判断は正しい。
俺がトラップを三マス進むにしたのは、三マス進み二マス進むに止まってしまえば、副会長が邪魔をしにくくなるとわかっていたからだ。
二マスという距離を歩く短い時間、そして、二マスあとに罠を仕掛けても、暗殺者が手にもった短剣を投げてしまえば破壊できること、その上その短剣の上に乗ることもできれば、飛び越えることもできる。一つ二つマスを壊したところで暗殺者は飛び越えてしまい、そのままゴールしてしまうし、あくまでエスゴロクは止まった指示に従うものであるから止まらない場所に罠を仕掛けても仕方がない。何より俺はまだ自由に使える罠を二つ持っていて、それを使えばどうとでもできると思われているだろう。
副会長が悔しそうな顔をしてこちらを見つめてきた。
反則狙撃に指示だらけのマスに行くように仕向けてよかったと心底思う。あれのおかげで副会長は俺を必要以上に警戒してくれ、さらに、疲れるくらいコマンドを入れてくれたのだから。
もし三マス進みきる前に副会長が二マス進むを壊せばもう少し俺は頑張らなければならなかったのだ。
副会長が疲れてくれていて、本当によかった。
俺は最後に暗殺者の手に残った短剣を、スタートに戻るに投げつけてマスを壊す。
それを暗殺者に飛び越えさせ、悠々とゴールにいれたのであった。