魔法や武術を教えない学校と同じように、いらないものを燃やしたり、最後のお祭り騒ぎをするための後夜祭は、静かに始まった。
後夜祭のメインイベントともいうべきものは、ただの魔法の光だった。
まばらに、無軌道に、夜空に散って消えていく光は、学園のありとあらゆる照明を落としているため、星とあいまって幻想的だ。
生徒会が携帯端末などに流した後夜祭の詳細を見た生徒が、思い思いの場所に散って、後夜祭のメインイベントを眺める。
俺も例外なく、誰もいない場所からそれを眺めて居た。
「こんなところからも見えるのか」
「……案外近かったんやなぁって、前、思うてん」
魔法の光は校舎に程近いフィールドで発されている。
昔、校舎からは遠いと思われた場所、初めて有名人達の顔を見てしまった現場からも、その光は見えた。
「誰もおらんと思うし、角度からしても、距離からしても、ええ具合に見えるんとちゃうかなと思うて」
「お前は本当に、計算が好きだな、キョー」
「まぁ、気配消して近づくの好きな人に言われてもなぁ……」
魔法の光はとあるフィールドの各場所から上がっている。
この場所からは、その魔法の光のすべてが見える。特等席といってもいい。
ぼんやり座って眺めていた俺の隣に、相も変わらず気配を殺してやってきた一織がやってきて隣に座った。
今日は本当に豪華な日だ。
笑ってしまった。
「なんだ?」
「なんでも。それより、今日出てく相棒のことはええの?」
暗殺者である一織の相棒である舞師は、今日、千想さんと学園を出て行くと将牙から連絡があった。
俺はそれほど舞師とも親しくないし、千想さんにはもう既に挨拶をしたようなものだ。
携帯端末で連絡だけいれた。
「もう済んだ」
「あっさりしとるなぁ」
「おまえの態度のほうがあっさりしていると、あいつの恋人が笑っていた」
あっさりとしていると思ったが、意外とちゃんと挨拶をしてきたらしい。
千想さんの様子を教えてくれた。
「やって、もしかしたら泣いてまうかもしれんし?」
「言ってろ。……あと、伝言も預かった」
「なんて?」
「『またね』と『恩に着る』だ」
「千想さんはええとして、おまえさんの相方、ちょっと堅くない?」
俺と同じ意見らしい。一織が笑みを零した。
「もう少し、あの堅いのと一緒かと思っていた」
「意外と、そんなもんかもしれひんな」
俺がしみじみと呟いた意見にも、一織は同意見だったらしい。静かに頷くと、何か決意したように小さく声を出した。
「キョースケ」
いつもは誰に呼ばれても、親しさの度合いを測るため、他との判別をつけるための記号みたいなものなのに、こうして改めて呼ばれると何故か特別に聞こえる。
それでも、言いづらそうな俺の名前が、少しおかしい。
「好きだ」
遠くを見つめたまま呟かれた言葉が、どれほどの意味を持つか、またどれほどの深さがあるか。測るまでもない。
特別なのだ。
数えるまでもない位置にある。
俺は少しだけ、そのあとに続く言葉を待った。
けれど、その後に続く言葉はなく、一織はただ、遠くを見つめるのみだ。
「……で?」
俺は頷いて、先を促す。
恐らく、それは余計なことだ。一織はその先など、現在求めていない。
「……言ったところで、何かになるか?」
「ならんやろなぁ……でも、好き言われても、何処に話をもってったらええの」
緩やかに一織が首を振った。
「潔く、答えろ」
「潔くなぁ……言うといたやろ、そう簡単に、気持ちは変わらん」
だが、以前ほどの情熱で会長を追いかけているかといえば否だ。もう、追いかけるのはやめたといってもいい。
それが会長のことを諦めようとして距離を置いたのか、会長に考えるための距離を開けたのか、今では少しわからない。
「そうだな。だが、俺もはっきり言ってもらいてぇから」
「そ」
俺は、一織が見ているだろう、魔法の光を見る。
あれは一織にとって眩しいのだろうか、それとも暗いのだろうか。俺には少し、ぼんやりとして見える。
「諦めなならんの?」
「……それを俺に聞くか」
「こことこ、周りが何やら決めてもうてるから、結論に辿り着かんとあかんみたいに思えてくるやろ」
学園を去ったり、壁を乗り越えることを決めたり、他にも決断した人間がいたかもしれない。
学園に留まっていられる時間は、順当にいけば、あと一年と少し。俺が魔法機械都市に途中で帰ることになればもっと少ない。その間に決断しなければならないことは多くない。