「俺は、魔法機械都市に帰ることにしとるんやけどな」
「……何」
「良平と、たぶん青磁は勝手についてくるし、二人は連れて帰ろうと思うとるんや。迷惑に思われてもや。でも、他は、手を振れる」
魔法機械都市に居た上に、こーくんと仲良くしていたのなら、あの都市のルールを一織は知っているだろう。
俺がどう自覚していようと、珍しいものであると他が思う存在ならどういう扱いを受けるということも、一織はきっと理解している。
都市のルールに縛られる俺があの街に人を連れて帰ることは、けしていいことではない。手を振ってさようならを言ったほうが優しい行為だ。
「ここに居る間だけなら、曖昧なほうが幸せちゃうん?」
一織がこちらを見た。
視線が痛いほど刺さっている気がする。
「……大事にしているんだな」
「そやね。ある意味宝物みたいなもんやろ。けど、一織」
一織が、その名前を呼んで特別にしたように、俺も、名前を呼ぶ。
「おまえさんは、宝物にはなられへん」
しばらく、一織は俺を見ていた。
視線がまた、どこかへ行ったと思ったら、ため息が聞こえた。
長い長いため息だった。
「……もう少し、ソフトに振ってくれたらいいものを」
「諦めるんやったら、きついほうがええやろ。せやけど、なぁ。宝箱に入れられるほうが幸せなんか、最後の最後まで使うてもらうことのほうが幸せなんかは、俺にはわからんことや」
隣で一織が立ち上がる気配がした。
「お前にとって、良平はなんだ」
「共犯者」
勝手に思っているし本人に言う機会もない。確認することもないだろうが、良平からしても似たようなものだと思う。
青磁とは違った繋がり方、青磁に嫉妬されるほどの繋がり方が良平とはある。
「……じゃあ、俺は、お前の切り札になってやる」
一織は賢い。
ここで俺に一織の立ち位置を聞かなかった。
あえて、自分自身のなりたいものを言葉にした。
「……俺は、たぶん、無理だ」
俺が尋ねたことに今更、答えが返ってくる。
「お前と魔法だけは、無理だ」
「そ」
短く答えると、一織は逆に俺に尋ねた。
「で、お前はどうなんだ?」
「学園生活が終わったら終わらすつもりでおったし、今も変わらんな。もしかしたら、もっと早よ終わるかもしれんし」
「そうか」
◇◆◇
相方が言った。
「離れても、俺はお前が助けを求めるようなことがあれば、言われなくても助けに行く」
誰かが堅いといったように、それはえらく律儀で堅い約束のように思えた。
だが、堅いといった誰かの血縁者も似たようなことを言っていた。
『どうにもこうにもならなんだら、こっちに戻って来たらええわ。いつでもハーレムにいれたるさかい』
まだ、誰かと同じような話し方をしていた。
今では誰かと違う話し方だが、尋ねれば、同じ答えが返ってくることを俺は知っている。
弟は変わった。
相方も変わった。
親友さえも変わっている。
けれど、変わらないものは依然としてある。
だから、俺は告げた。
そして誰かが、俺は宝物になれないと言った。
一瞬、息が詰まった。
ひどい奴だと思った。
それでも変わらない俺が、あまりにも馬鹿馬鹿しく、ついため息をついた。
息さえも、少し震えているように途切れる。
少々、長引いたため息のあと、いつも通り切り替えしたのは、またいつも通りに戻ろうとしていたせいかもしれない。
誰かは、俺に聞く。
諦められるのか。
誰かは俺に、いつも言ってくれる。
形はたった一つか。
変わることがある。変わらないものがある。
俺は変わらず、誰かに、キョースケに、影響される。
諦めることができない。
だから、俺は切り札になる。
絶対的な味方、最後の最後まで裏切らない、お前だけのものになる。
そう決めた。