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一織さんにしてもらう仕事の話がひと段落した頃だ。
軽快な音が部屋の出口付近から聞こえてきたので、出口へ向かい、ドアを開けると叶丞くんが立っていた。
一織さん同様、珍しい人が訪ねてきたなとしみじみ思っていたら、さらに珍しいことが起こった。
部屋の中で人が見ていないからと、気を抜いたのか仕事のことが決まったからか、だらけていた一織さんが、明らかに動揺していたのだ。
あの一織さん、……暗殺者も動揺するんだと、すこし可笑しく思っていると、一織さんは次から次へとおかしな行動に出た。
普段ならさらっと流してしまうこと、それがどうしたという態度にでること、爽やかに笑って誤魔化すこともなく、ただひたすら、叶丞くんから視線を逃す。
叶丞くんはあくまで楽しそうにその様子を眺めていたから、もしかしたら、一織さんは気まずいというより照れくさいとか恥ずかしいのではないかと思いもした。
もし、照れくさく恥ずかしいのなら、一織さんよかったねとお祝いしても良いくらいだったのだが、どうやら違うらしい。
叶丞くんと一織さんの間に何かがあったのだろうに、叶丞くんが『答えられない』といったからだ。
片方が何の感情も込めず、さらっと言ってしまえるのは、きっとおめでたいことではない。
結局、仕事の話をし終えるくらいに、一織さんが叶丞くんに振られたという話になったため、一織さんは気まずかったんだろうということが解った。
しかし、叶丞くんは一織さんを振った張本人であるにも関わらず、一織さんの珍しい様子を楽しむばかりで、気まずそうな様子を見せない。
一織さんを歯牙にもかけていないのか、逆に、その反応が嬉しいのか、それとも、性格が悪いだけなのか解らない。
俺があまり他人事に興味がないせいもあるが、叶丞くん自体、なんだかつかみどころがなくふわふわしているようなところがあるためだ。
叶丞くんはふわふわというより、ひらひらのような気もする。掴もうとすればそのひらひらを引っ張って遊ぶのだ。
そう考えると、叶丞くんは大変性格が悪いことになる。
反則狙撃として活躍する彼を見ている限り、性格がいいとは言いにくいのだから、それも間違いではないだろう。
最後には一織さんも、バカらしくなったといって呆れていたが、俺は二人の様子がなんだか面白くなってきた。
技芸団で雇っている間は、この二人を観察できる。少し楽しみだ。
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