お仕事はお決まりです。


学園で友人たちが帰宅していく姿を見送った後、今度は残った友人たちに見送られ商業都市へと旅立った。
一名にじろじろと無遠慮に見られながら半日と少しでたどり着いた商業都市は、祝祭の準備でせわしなく、また、浮かれている。あふれる人も、行商が並ぶ市も賑やかで目眩がしそうだ。
祝祭の浮かれ気分を味わうこともなく和灯の所属している技芸団の団長に会いに行く。技芸団は天幕をいくつも張って、少し都市から離れた場所に群のようなものを作っていた。
その中の一つ、一番大きい天幕に居たやけに若く見える団長は人好きする笑顔で言い放った。
「よし、二人ともちょっとした試験をしようか」
挨拶もそこそこ、技芸団のメンバーに見られながら、技芸団の天幕の下、俺は何故か一織と向かい合っていた。
「叶丞くんと一織さんなら、戦うだけで一芸だよね」
原因は、団長に会わせてくれた和灯がそう言ってしまったからに違いない。
技芸団メンバーに怪我をさせないように和灯が結界を張ってはくれたが、本来ならば技芸団メンバーが芸をするだろう舞台で一織と戦うのは、あまりにも狭すぎる。
その上、俺にとって不利としか言いようのない状況だ。
罠もなければ、魔法石もあまり持っていない。しかも、遠距離といえるほどの距離をとれる場所ではなく、まして隠れる場所など少しもない。
一織なら、一気に距離を詰めてしまえるだろう。
久しぶりに、暗殺者ではない一織と対峙した俺は、一織に一つ提案した。
「なんちゅうか、手加減とか」
「お前と戦うのに必要なものじゃねぇよ」
「いや、でも、この距離、もう、おひぃさんの近距離やん」
一織は手に短剣を持ち、一度宙に放って持ち方を変えた。
「何言ってるんだ?スタート時はぎりぎりキョー、スケの中距離だろ」
ギリギリはあくまでギリギリだ。
一織が一歩踏み出してしまえば、それは、一織の近距離である。
「どう考えたって俺、不利やと思うんやけど」
「……そうでもねぇよ」
「いやいや、そうでもあるんやって」
手加減してくれそうもない一織に、軽く右手を横に振った後、左手でホルスターから銃を抜く。
戦うことが決まったときに、最初から腰にセットした銃は三つ。ライカとフレド、彩菜だ。
今、左手にあるのは、ライカでもフレドでもなく、追尾弾を撃つことができる彩菜である。
「それ、久しぶりに使うのか」
「彩菜ちゃん?」
「……彩菜ちゃん?CS227じゃねぇの?」
「ああ、知っとったん」
俺が銃に名前を付けていることを知らない一織が怪訝な顔をする。俺は一織の疑問に答えず、曖昧に笑って銃口を一織に向けた。
「前、少しやったといっただろう」
「そうやったっけ?」
進級試験を受けた後くらいに言っていたことだった。首まで傾げてとぼける。
一織は何かききたそうな顔をしていたが、戦いを終わらせてからにしようと思ってくれたようだ。
一織も俺に剣先を見せ、構える。
「じゃあ、団長が合図したら戦闘開始ということで」
俺と一織の準備が済んだと認識した和灯が団長の隣から俺たちに声をかけた。和灯と団長がいる場所は観客席の一つで、舞台の全体が見え、かつ、一番舞台を楽しめる場所だった。
「よし、始め!」
団長の声が聞こえるやいなや、俺の指が動く。
反応は俺の指より一織の方が早かった。
位置を少しずらすように、まるで中心がブレたように一織が少しだけ横にずれたあと、右腕を足と同時に動かす。
足は前へ、右腕は横に薙ぐ。
「ちょ……!」
刃は俺に届かない位置だった。
しかし、その右腕から見慣れた銀色が飛び出した。
俺は思わず続けて指を折る。
一回の戦闘につき三発しか使えない追尾弾の使い方としてはもったいない使い方であったが、何処に隠し持っていたのか解らないナイフが当たるよりましだ。追尾弾はみごと、ナイフの犠牲となり、俺はナイフから見事逃げおおせた。
ここは学園ではなければ、便利なシステムを採用している場所でもない。
的確に一織は俺の肩辺りを狙ってきたが、当たれば怪我をするのは当然のことだ。
俺の撃った追尾弾も、一織に当たることはない、もしくは当たっても致命傷にはならないと確信を持っているから撃てるのであって、そうでなければ何処に当たるとも知れないものを撃つことなどできない。こんな見世物になっている状態で証拠隠滅も出来なさそうなことはしたくないし、友人を故意になくすようなこともしたくない。
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