荷物をお届けにまいりました。


重たい荷物を持って立ち回りはあまり賢くない。 邪魔になるのだ。
たとえ、その荷物が依頼の品だとしても、邪魔なものは邪魔だ。
ならば、立ち回りは出来るだけ避けるか、荷物は大事に保管、もしくは仲間に任せてドンパチするというのが理想的だろう。
俺は出来るだけ避けるを選択したいがために、走っている。
総重量は持ったときから変わっていないと思うのだが、何故か時間が過ぎるごとにこの荷物は重くなっていく。
「呪いとかかかっとるんちゃうかな」
「かかって、いて……も!おかしくないがッ、ちがう……ッ!」
息を切らして走っているというのに、会長が後ろからきっちりと答えてくれる。
根が真面目だから仕方ない。
俺は、後ろから慌てて追ってくる気配と、俺達を待っている気配を避けるべく足に力をいれ、立ち止まった。
「そうそう、会長。二手に分かれたほうが拡散できると思わん?」
振り返った俺が息も切らさず走っている姿に、いくつか罵りたいのか、会長の口が開閉した。けれど、立ち止まった会長から漏れるのは荒い息ばかり。少しエロいと思ってしまった。
「……、何処に……ッ」
何処に行くかもわからないくせにという文句なのか、何処に集まるかを尋ねたい言葉か悩むこともなかった。
有無を言わせるつもりがなかったからだ。
「会長、あんまりサポート系の魔法得意ちゃうんやな」
「……るっせぇ!」
文句はしっかり言葉にするので、先ほどの何処には文句ではなかったのかもしれない。
「今のままやったら、囲まれてまうから、この荷物はしっかり後ほど、会長にお届けいたしますわ」
何処に届けていいか解っているのかと怪しげな目で見られたが、そんなことは団長や会長に聞かなくても解る。
会長の気配を追うのなど、慣れたものだ。
「会長おるんやったら、簡単やから」
「……ッ変態!」
さすがにそれはちょっとそうかもなと思っているので、視線をそらす。
「ほな、二手に別れましょか。会長、俺と離れたら、気配隠す魔法、使ったって。ちょっとの間だけお願いします。会長探し出すときは、会長の気配必要やし、ちょっとの間だけで」
できることなら一生隠してやりたいと、その表情は語っている。
出来るものならやってごらん、へとへとになるだけだよとかいってしまおうものなら、意地でもなんとかしそうな気がするので、苦笑だけしておく。
「異論はないようなので、ほな、解散」
再び文句を言われる前に、俺は逃げるように走り出す。
会長の足音は俺についてくることなく、違う方向へと走り出した。
敵を二手に分けるためにも、会長より後に気配を隠すべきなのか、会長より先に気配を隠すべきなのか迷う。
いかにも届け物が間に合いそうにないから走っているような顔をして走りながらも、俺が追っている立場ならどうするかを考える。
俺が荷物を奪いたい場合は、追いかけるよりも待ち伏せる。
会長に渡されることが解っていれば、二手に別れるよりも、会長の傍で待つほうがいい。
必ず会長の手元に荷物を届けなければならないからだ。
運び手である俺には代わりがいるが、届けなければならない相手である会長に代わりはいないように思う。
ならば、俺は気配をうまく隠すより下手に隠したほうがいい。
うまく消してしまうと会長が向かった方に行ってしまうかもしれないからだ。
待つほうがいいが、二手に別れたということに焦っているのなら、荷物を狙っている連中は待つことを一瞬忘れてくれるかもしれない。
少しの間でいい。
俺を少しでも追ってくれれば、人手は拡散され時間が増える。
俺は出来るだけ大通りと思われる場所を走った。まだ人がたくさんいる時間であるため、俺にも追いかけてくる連中にとっても邪魔だろう。
その上、まだ地理がよく解らない俺にも大通りならば不意に行き止まりに会うということもあまりない。
俺は気配を少しだけ隠して走った。
たまに振り返る人、買い物に夢中な人、連れとの会話に夢中な人。それらの人の邪魔にならぬように、そのうえできるだけ遠くへ逃げる。
人の中に紛れる様に、会長の気配と追いかけてくる連中の気配を探りながら走っていたから、自身の周囲に気を配れていなかったのだろうか。
俺は足に何かを引っ掛けられ、走っていたこともあり、こけそうになったのを、足を前に出すことでその場に留まった。
異様に前傾した姿勢で止まってしまったのが妙に恥ずかしい。
俺は注意を促す絵のような微妙な格好のまま、俺に引っかけられたものを探した。それは人の足だった。
「忙しそうだな」
俺は荷物の無事をちらりと確認してから、姿勢を直す。
先ほど、別れてきた会長によく似ているが、それよりも低い声。
聞き覚えがある。
引っ掛けられた足を辿り、その声の主が誰であるかを知った。
「にゃんこの手ぇも使えるんやったら、かりるわ」
「……にゃー」
「いや、おまえさんは普通に手ぇ貸したってよ」
一織だった。
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