俺はそれとは逆に気にしていない。一織の反応が面白いとさえ思っている。
「いうたやろ?曖昧なほうが、幸せとちゃうんかって」
隠してきたわけではないが、はっきりさせることを選んだのは一織だ。
その分だけ、俺は正直に、曖昧にしなくてもいい部分が増えた。
少し一織への捉え方が変わったといってもいい。
「それに、なんとも思てへんのは、誤解やな。ええ友人やと思うとるよ。ただ、俺は友人も使う主義やからな」
一織が俺に両手を伸ばす。
納得のいっていない様子は、仕事と私事は別物だと言い聞かせようとしているようにも見える。
「……受けとろう」
「文句くらいやったら、きくで」
行われる事が変わらなくても、言うだけですっきりすることは多い。
「俺が決めたことだ。いうつもりはねぇ」
潔い。あまりにも潔すぎて、後々爆発しそうでもある。
そこは会長とは似ていない。会長は文句をきちんと吐き出す。仕事は仕事だという部分は兄に見習ったのか、嫌でもその方法でいいと思ってくれたら従ってくれる。
「で、俺はこれをどうすればいいんだ?」
一織に渡した箱に変化はない。
無効化されるときに何か合図なり、証なりがあれば解りやすいのに、箱は静かなものだ。
「これ、無効化されとるんかなぁ」
「されている」
疫病神とまで言われた一織がいいきったので、解ったと何度か頷く。
もし、魔法が消えていなくても一織にはそのまま荷物を持っていってもらうつもりだから、結果はどちらでもいい。
「ほな、それ、持って帰って送ってもらえるやろか」
「送る?」
俺は一織の持っている箱を開けて、勝手に本を取り出すと、自分自身の腕にそれらを収めていく。
気配は相変わらず俺を探して移動している。
俺と同様、会長も追われているはずだ。
気配はまとまりなくばらけつつあった。
会長を追いかけてみたが、会長を見つけることが出来ていないのだろう。
会長は魔術師だ。邪魔な本さえなければ自由に魔法が使えるはずだ。それこそ結界魔法でも、転移魔法でも自由自在。俺よりも早く追っ手から逃れるかもしれない。
その上、追手は会長が滞在している場所も解っていないようだ。会長がうまいこと滞在場所を変えてくれた可能性もある。
会長は追っ手をうまく撒く事ができたと考えたほうがいいだろう。
だからこそ、追手はまだ気配が隠れきっていない俺を探そうとする。俺のほうへの追手が増えた。
「ひぃが気配隠しとるっちゅうことは、見とらん限り誰も、ひぃが本もっとるとは解らんちゅうことや」
「……そうだな。で?」
一織の質問に答えていないせいで、一織が俺の言葉から俺の真意を探ろうとしていた。
真剣な顔をして話を促してくる。
「やから、俺はちょーっとだけ囮しとこかなと」
本を箱からすべて出しきると、両腕に抱えなおす。
「箱とこれ、交換。ほんで、その本だけ和灯あたりに送ってもろて」
「……囮?」
これも少し納得がいっていないようだ。文句の前に疑問を出すのは、形だけでも納得したいのかもしれない。
だが、これには一織も納得するだろう言葉を用意していた。
「俺が囮になる!お前は先いっとって、追いかけるさかい!……ちゅうのとは違うで?ほら、さっさと行ってくれんと、罠はられへん」
あちらは会長や俺の気配に変化が現れたときから、走ったり止まったりしている。こちらに追いつくのも時間の問題だ。
最初に一織が言った様に迎え撃つことにしたのだ。
この場合は、少しだけ迎え撃つが正しい。
「こんなところでも、反則か」
「反則ちゃうくて、狡賢いちゅうやつやな」
今度は俺の言葉に納得したのか、思い切り鼻で笑われてしまった。いつもの一織だ。
「似たようなもんだ。和灯は巻き込んでいいのか」
「団長さんに聞いてええようなら、やな。だめやったら、一織。会長に連絡とって、お届けしたって」
会長は嫌がるだろうが、それが今のところ俺の考える限りでは安全に届けられる方法だ。
箱を一度地面に置き、俺の手から本を受け取ると、一織は箱をこちらに軽く蹴って寄越した。
「どうでもいいことだが」
「なんや?」
「十織は会長なのか?」
これも何度か頷いて、箱を拾い上げると片手を振って俺は再び歩き出す。
「言い慣れてしもてな。なかなかもどらんのや」
一織の感想はなかった。
顔も見ていなかったので、感想を言いたかったのかも解らない。
ただ、なんとなく俺から離れていったのだけは解った。
「さて、何処に隠れようかな」
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