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追っ手をうまくまいて、滞在場所も変え、一安心したくらいだった。
兄貴から連絡があった。
依頼の本をそちらに送る。場所を教えてくれという内容だった。
アレが来ると思っていたこと、兄貴に俺が何処にいるかばれているということ、その二つが俺を焦らせる。
何故兄貴が荷物を届けようとしているのかということより、俺がどうしてここにいるかを兄貴が知っていると考えられることに舌打ちまでしたかった。
俺はそれでも、なんとか滞在地を兄貴に連絡する。すぐさま、和灯の魔法で本が届く。
俺は本の冊数を数えたあと、その場に座り込んで息をついた。
久しぶりに長い時間走ったということと、慣れない魔法を使ったことで疲れていたのだ。
「……あ?」
息をついて、しばらくの間座り込んでいると、不意に兄貴が荷物を届けるということに疑問を覚えた。
本には魔法がかかっていたはずだ。
その上、その本は転移魔法も排除するはずだった。魔法が消えてしまうだけならまだしも、反射したり、中途半端に魔法に影響を及ぼすため魔法など使えたものではなかったはずである。
ある可能性が頭にちらつく。
その可能性を否定したくて、恐る恐る本を確認するように見つめる。
少し、目に力を入れるように凝らしてみたが、本から魔法の気配は消えてしまっていた。
容易に理解できた。
兄貴が無効化したのである。
兄貴がすすんでこういった本の魔法を消したがるとは思えなかった俺は、すぐにその魔法を消すように言った人物が思い浮かんだ。
アレだ。
俺は遠慮なく、思い切り舌打ちをする。
本には影響がないし、読むには邪魔になる魔法だ。いずれは解除しなければならない。
本を損ねたわけでもないのだから、いいといえばいいのだが、この妙にもやもやとしたやり場のない気持ちを何処にはき捨てたらいいものか……おそらく、アレにぶつけるのが一番いいだろう。
しかも、よく考えなくても、兄貴が荷物に関わっているということは兄貴はアレと一緒に仕事をしているということだ。
この本を運ぶという仕事には色々な人間が関わっているが、それでも、兄貴とアレが二人で一緒に仕事をしているような気がしてならない。
仕事の邪魔はしてはならないとは思う。
しかし、兄貴と仕事以外で一緒にいるのは業腹だ。
「阻止してやる」
心が狭いと自分でも思う。
しかし、俺は、自他共に認めるブラコンなのだ。
兄貴に俺がここにいると知られた今、仕事以外の時間を邪魔しても俺に何の不都合もない。
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