追っ手をうまいことビックリさせて帰ってくると、俺を待ってくれていた団長に捕まって、根掘り葉掘り色々聞かれ、あれよあれよという間に睡魔に負けて、気がつくと朝だ。
差し込んでくる朝日が眩しい上に、何故か床の上で寝ていたおかげで寒いし、体が痛い。
団長が寝る前にメモを残してくれたのか、時間と集合場所が書かれた紙が俺の手に握らされていた。
「もうちょっとねれる……」
よろよろ立ち上がり、俺は天幕から出た。
差し込んできていた朝日より眩しい気がする外の光が、清々しさを通り越し、殺意すら抱かせる。
外に出ても同じようなものがいくつもある中、どれが俺や一織が滞在することになっているものかを確認した。大きさと旗で解るようになっているが、もし、旗がなければどれがどれか解らない。
しかし、そのときの俺はすぐに俺の行くべき場所を見つけた。一織がその近くで朝の鍛錬と思しきことをしていたからだ。
短剣を上から下へ、下から上へ、右、左、斜め、動かすたびに軌跡が走る。
準備運動程度といった動きは、一織の鍛錬の賜物か綺麗に流れて見えた。
剣が陽光を反射するせいか、なんだか一織が少し眩しく見える。朝というやつは何故こうも何もかも爽やかに輝かせて見せるのだろう。気のせいだというのに、眩しくてたまらない。
それを眠さも手伝ってぼんやり眺めていた俺に向かって、一本、ナイフが飛んでくる。
「眠いんやから、止めたってよこういうの……」
横に飛ぶようにして避けた俺に、一織が首を傾げた。
「眠いくせにきっちり避けるのか」
「避けんと死んでまうわ」
「手加減はした」
飛んでいったナイフは、誰が何に使うか解らない、いくつか積まれた丸太に刺さっていた。
たとえ、人を殺傷するためではなくバターをパンに塗るために作られたナイフが使用されていても、木に刺さるような攻撃を手加減したとはいってはいけない。
「ひぃはなんや、俺に言いたいことあるんやろか」
あるかもしれない。
昨日もなにか言いたそうにしていたし、荷物を渡したときも文句があったに違いないのだ。
「そうだな……聞きたいことはある」
「うんうん、そうかもね、そうやろね。やけど、今朝は寝させたってください」
眠れるのなら、土下座してもいいくらい眠かった。
疲れというものは溜まるものだ。
長距離移動してきた上に、動き回ってさらに、いい状態で眠れなかったとなると、眠くて仕方ないのも道理である。
「そういって、後で聞いたら、忘れたとかいうんじゃねぇだろな」
「そんなこというたことあった?俺、ひぃには誠実にせいじつ……せいじ……まぁまぁ正直に答えてると思うてるよ」
誠実と言い切ることができなかったのは、眠くて頭が回らず、誠実なことをした記憶を探ることができなかったためだと思いたい。
「まぁまぁな」
「なんで、ちょい印象悪いなぁいうことやと納得したような顔するん?俺、そんなに印象悪いん?」
一織が聞きたいことを聞く前に、俺が質問してしまった。
一織は、何を聞かれたかわからないような顔をして、鼻で笑う。
「さぁ?」
憎らしい限りである。
俺は一度顔を両手で覆った後、息を大きく吐いて吸うと、手を顔から離した。
「とにかく、また後でで許したって」
ひらひらと手をふり、寝るために天幕へ向かうと、一織が俺の背中に言葉を投げた。
「忘れねぇからな」
できることなら忘れてもらいたい限りだ。
背中に投げられた言葉にゆるく首を振って、天幕の中に入ると、そこには団員と家が遠い、雇われた人々が、男女仲良く雑魚寝していた。
全体をゆっくりと見渡し、その中で寝れそうな場所を見つけると、俺は一言呟いた。
「やっぱり、あのお姉さんおらんのやな」